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2012/07/12

【ISID】『金融イノベーション海外事例』海外の先進的な金融ソリューションやサービスの個別事例を取材

| by:ウェブ管理者



2012年7月5日(木)、グッドウェイは金融分野のイノベーションに特化した世界最大級のカンファレンス「Finovate Spring2012」の参加報告会(5月18日(金)開催)の取材レポに続き、再び東京都港区にあるISID(電通国際情報サービス)本社を訪れた。
前回の取材では報告会の全体的な模様やISIDの取組を中心にレポートでお伝えしたが、今回は参加報告会で紹介された海外の先進的な金融ソリューションやサービスの個別事例を取材レポート(Part2)として業界に広く紹介すべく、ISIDの金融イノベーションに関わる方々の協力を得てお届けしたい。

取材当日は、ISID金融ソリューション事業部(3名)より、金融業界の活性化に向けたイノベーションへの取組について様々な視点から説明がなされた。

最初は、今春にサンフランシスコで行われた「Finovate Spring2012」を視察した金融ソリューション事業部 金融事業戦略部 シニアコンサルタント 公門 和也氏より、自ら報告会用にまとめた資料に沿って、今回紹介された事例のトレンドやサービス概要について解説があった。(公門氏のコメント内の太字部分は、報告会資料より引用)


【Ⅰ】既存金融機関が対応できていない領域でのサービス開発
ベンチャーが主体、あるいはフロントに立ってサービスを提供することにより、これまで既存の金融機関が対応できていなかった領域でのサービス(手法・対象)が開発されている。

「手法面の例としては、ソーシャルメディアでの支持を与信評価の1つとした融資サービスKabbageがあります。従来の決算書や担保による与信よりも、成長性やファン/フォロワー数などソーシャルメディア上でのバリューを重視し、それを与信に組み入れるというものです。また、対象面で代表的なものは、Zipzapというサービスがありました。これは米国への移民者など、銀行口座やクレジットカードを作れず通常のオンラインサービスが利用できない層へのペイメントサービスです。オンラインで買い物する際、支払い方法の一つとして選択し、その後、グローバルに70万箇所以上の場所でペイメントセンターを利用して決済できるようにすることにより、これらアンダーバンクト層にオンラインショッピングの利用を可能にしています。」


【Ⅱ】マーケティング領域におけるサービス開発
金融機関にある取引履歴を企業(小売)のマーケティングに活用している。これにより、従来のバンキングは金融機関とユーザが相対する取引であったものが、小売業を巻き込んでバンキングのエクスペリエンスとビジネスモデルを変化させている。

Cardlyticsは、金融機関・ユーザ・小売企業がトライアングル構成で展開するひとつの例と言えます。デビットカードもしくはクレジットカードの取引履歴から、ユーザの興味のあるものを想定し、おすすめ商品/サービスを提示します。ユーザはカードを利用するのみでキャッシュバックを受けられます。金融機関は、取引履歴データ等のユーザの個人情報を、ファイアーウォールから出ない形で小売企業に提供し、その対価を得ることにより実現されています。」


【Ⅲ】PFM(Personal financial management)は更に付加価値が向上し次世代へ
ここ数年、金融ベンチャーが多く登場していたPFMツールが、市場の熟成化のためか、更なる付加価値をつけてきている。

「例えば、iQuantifiは、個人への家計簿機能の提供だけではなく、フィナンシャルアドバイザー機能も併せて提供するというものです。車購入、結婚、住宅購入、教育、年金などライフイベントをインプットし、それぞれの年月で目標を達成するために何をどうするべきかといった提案を受けることができます。また、ライフイベントのタイミングを動かしてインタラクティブにシミュレーションを行い、その過程で金融機関からゴール達成に関連する金融商品がオファーされるというサービスです。またBill.comは、PFMのB2B版ともいうもので、企業の売掛・買掛をまとめてキャッシュフロー管理を実現させます。さらに、このBill.comが先述のKabbageと連動し、キャッシュフローをよくするためにそのままKabbage経由で運転資金を調達することができます。」


※この他のサービス詳細や他の海外カンファレンスの報告はISIDのFIBP(Financial Innovative Business Project)レポートをご覧ください。

~ソーシャルメディアと金融の融合~
公門氏の説明後、金融ソリューション事業部 金融事業戦略部長 飯田 哲夫氏は、海外事情について以下のように語る。

「先ほどの説明にもあったソーシャルメディアを利用した与信サービスについて、与信方法や基準など具体的な判断モデルはまだ明らかではありませんが、法人以外でも個人を対象とした与信サービスも始まっています。ソーシャルメディア上で影響力を持つ個人はマーケティング上の効果が高くなると期待されるので、それを価値として捉えることができると考えられているようです。

オンライントレード関係では、米オンライン証券TradeKing(トレードキング)Zecco(ゼッコ)2012年5月15日に合併を発表し、米大手オンライン証券に対抗できる勢力となっていますが、両社は既に4~5年前からSNSのような機能を取引プラットフォームに採用するなど差別化を図ってきた点が特徴です。顧客同士で「いつどこで何を買ったか」、「なぜそれを買ったのか」といった情報交換やコミュニケーションが取れることで、取引全体を活性化させる効果などが期待できるというものです。ツールも発達して高度化する中、売買は自分でやるという層と金融機関のアドバイスで投資をする初心者層のちょうど中間ぐらいに位置する投資家層が、こういったサービスを利用しているのではないでしょうか。

こうした米国の様々な先進的な取組はベンチャー企業やベンチャーキャピタルだけで展開されているわけではなく、イノベーションのコンサルティングに特化した専門会社があって、その企業のアイデアを取り入れたり商品の設計を委託するようなケースなども最近は増えているようです。
銀行など金融機関自身がこうした取組を進めようとした場合、規制の問題や今のシステムに囚われた商品設計になってしまうなど障壁や限界もあり、それを乗り越えるべく、うまくベンチャー企業やイノベーション専門企業と組むという流れができつつある印象です。

Finovateについては今後も定期的に視察していきたいと考えています。その他にもトラディショナルな銀行が集まり開催しているBAI (Bank Administration Institute)のカンファレンスにも毎年参加しています。ただ、年々参加者が拡大するFinovateと比べ、BAIは年々参加者が減少しており、こういうところを見てもイノベーションに対する意識の高まりを感じます。

視察後はできるだけ報告書を公表するようにしています。ISIDの一連のこうした活動には、こうした海外の新しい流れを国内でも促進したいという願いがあります。
日本国内において金融機関が国内外のベンチャー企業と組んでスタートアップビジネスを始めることは簡単ではありません。だからこそ、日本でももっともっと金融イノベーションが起こりやすい環境作りを推進していくため、このような様々な啓蒙活動を通じて貢献していきたいと考えています。」

~今秋、Finovate がシンガポールでアジア初となるカンファレンスを開催~
今春、サンフランシスコで開催された「Finovate Spring2012」だが、今後、アジアでも初となる開催を、今秋にシンガポールで予定しているという。これまでの、英国や米国での開催とは違う、アジアを中心とした企業の参加も期待される同カンファレンス、これらの報告書を始めとした金融イノベーション情報はISIDのホームページ(金融ソリューション)の他、同社のFIBC(Financial Innovation Business Conference)のFacebookページでもチェックできる

~地域金融機関等と「中小企業の経営実態把握手法の構築」を目的とした共同研究会を開催、報告書を公表~
最後に、金融ソリューション事業部 金融事業戦略部 小松千香氏より、バリューチェーン・ファイナンス(VCF)研究会についての紹介があった。
「海外では、金融機関や金融ベンチャーが補完しあい、新しい金融サービスが生まれています。弊社でも、地域金融機関や大学教授等の有識者とともに、中小企業の経営実態把握手法の構築を目的に研究会を開催しています。中小企業の経営支援を目的とした中小企業金融円滑化法が2013年3月で期限を迎えるなか、金融機関には課題解決型のコンサルティング機能のさらなる向上が求められています。多くの金融機関において、企業へのモニタリングが財務情報を中心に行われており、顧客企業の知的資産の把握が不十分で、コンサルティング機能が十分に発揮されているとはいえない状況にあります。弊社では、この課題解決と経営実態把握手法の構築を目的に、バリューチェーン・ファイナンス(VCF)研究会を開催して報告書を公表しました。この度の取り組みが、金融業界や地域経済の活性化につながればと考えています。」
バリューチェーン・ファイナンス研究会報告書





【取材を終えて】 グッドウェイ コンサルティング事業部長 下田 暁

FIBCで紹介されている、欧米で相次いで始められている新たな金融系ネットサービスは、今後世界に大きなインパクトを与える可能性がある。家計簿等個人向けのマネー・マネジメント・サービスは以前からあったし、Web上の広告モデルに至ってはこの間相当こなれて来ていた、というのが大方の認識であろう。

然し、今回、紹介された内容は大きく進化したものであった。個人向けマネー・マネジメント・サービスはかなりの程度包括的になり、税務・会計だけではなく、将来の入出金に関するコントロールが簡単にできるようになった。更には、ついに同じモデルを利用して、法人向けサービスまで登場した。

広告モデルは、金融機関-消費者-小売業の新たなトライアングルの関係を構築し、お互いが相互に恩恵にあずかるモデルを創出した。金融機関の決済ビューに小売りの広告を掲載し、消費者はそこから商品を選択し、その場で決済もできる。大量データを基に、消費者の行動や嗜好を推論し、提案する型のモデルである。これによって、互恵関係が生じ、お互いのコストを下げる事が出来る。

確かにここまでは、従来のサービスの正常発展系ともいえるが、日本ではまだまだ本格的に登場しておらず、今後の登場が待たれる。

一方、誰もが夢見、考えてはみたがなかなかサービス化できなかった仕組みが、ついにサービスとして開始された。ユーザ(借り手)の与信をソーシャルネットワーク上の存在で評価する、というものである。つまり、実際にユーザ(借り手)が財(金銭)を現時点で十分保持していなくとも、ソーシャルネットワーク上で高い評価を受け、定常的に活動しているならば、それ自体を価値として認め、信用を与えよう、という仕組みである。これは、もし成功すれば、これまでの経済学の枠を飛び越えた信用創造がなされる事となる。ネットワーク上のアクティビティが社会的存在として認知され、それが社会的信用力に繋がる、ということになるからである。言い方を変えると、ネットワーク上のアクティビティがレーティングされ、そのレーティング結果に対して信用創造がなされる、ということである。このレーティングアルゴリズムの精度を各サービス提供者が競うことになる。
社会に対して大きなインパクトをもたらしそうな同サービスの今後の展開・成否に注目する所以である。

こうしたサービスは、ここで全ての例を取り上げられないが、徹底的な利便性の追及、既存の金融システムからデバイドされたグループへのサービス提供、等いくつかの共通項を持っている。総じてユーザ目線にたった、新しいジャンルへの進出、既存サービスの結合による新サービスの創出、といえる。


今回、ISIDが取材の中で語った、こうした事例を目の当たりにして、幾つか考えさせられる事がある。一つには、日本では、業際の壁を容易に乗り越えられない事を欧米では簡単に超えて実現してしまう、という事である。否、彼らも相当な苦労をして乗り越えて来てサービスの形を作っているのだろうと思う。ただ、関係者が超えよう、という強い意志の元、見解の相違や立場の相違を乗り越えて新たな仕組み作りに注力しているからこそ、可能なのだろう。

私は、日本でこうした取り組みが中々できない事を法制度や官僚組織の所為にする議論に与しない。勿論、時として大きな阻害要因や決定的壁になることは重々承知している。然しながら、当事者や、関係者に困難を乗り越えて新たなサービスを創造しよう、という意志が弱いのではないか、と考えている。特に、考え、行動する前に自主規制してしまって、委縮しているのではないかという問題提起をしたい。法や規制の隙間をついて乗り越えるのではなく、法や規制、慣例の趣旨や本質に沿って尚且つサービス化できないか、を関係者一人ひとりが真剣に考えない限り、この傾向は続くと思われる。


また、こうしたサービスに投資する投資家の側も安易にリスクオフする事だけに苦心してはいないだろうか。次の日本の産業を支えるかもしれない知的サービスを診断(精緻さだけを求めるのを診断、と言っているのではなく、良いサービスとして世の中に必要とされるかどうかを考える目)し、育て、支える観点を大いに持っていただきたいと心から願っている。

こうした中、ISIDはこうした世界で日々生まれている、新しいサービスを日本に紹介し、啓蒙に取り組んでいる。それだけに留まらず、そうしたサービスを実現・普及する為に、どのような事が出来るか真剣に検討を進めている。また、こうした取り組みの一環として、知的財産をどう、評価・活用できるか、という活動も進められている。

日本の新しいサービス創造文化をどう確立していけるか、という文脈の中で、今後の一連の取組と展開に期待したい。

 
 
(取材:グッドウェイ 藤野 宙志、下田 暁、柴田潔   取材コラム:下田 暁 撮影、記事、編集・制作:柴田 潔)

 
 
 

23:45 | 取材:金融・IT業界向け

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