今回は、グッドウェイの藤野社長にインタビューさせていただき、 産業革命をもたらすフィンテックを、地域金融としてどのように 地域創生に関連付けていけるかなどについてお話しを伺いました。
聞き手:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一
取材日:2016年2月10日
株式会社グッドウェイ 代表取締役社長 藤野 宙志
<経歴>
1995年慶應義塾大学理工学部卒業後、キヤノンマーケティングジャパンでシステム開発に4年間従事。1999年SBI証券にてネット証券の立上げに際しシリコンバレーに駐在。ナスダック・ジャパンでは新興市場創出の調整役として証券業界を奔走。2002年シンプレクス移籍後、金融機関向けソリューションセールスを担当。金融市場の発展と活性化を支援すべく2010年6月にグッドウェイ創業、金融ITメディアを運営。
藤野 : はい、おかげさまで今回で8回目を迎え、アンチ・マネー・ローンダリングに関する日本で最大規模のコンファレンスとして認知され、金融機関や官公庁・公的機関・事業会社のコンプライアンス部門から300人に参加を頂きました。今年は、特に地域金融機関からの参加者の割合が増えました。最近、注目を集めているフィンテック、そして仮想通貨などの議論でも欠かせないテーマでもあり、関心が高まっているようです。
澁谷 : 昨年7月に同じく共催した「GMS2015」でも、「フィンテックが導く金融サービスの未来」と題して、企業の経営モデルや人々のライフスタイルの変化について議論する場を催しましたが、その後、加速的にフィンテックという言葉が認知され、広がってきました。
藤野 : 金融とテクノロジーの融合(フィンテック)は、私たちの金融・IT業界では元来より切り離すことはできないものですが、その役割は、効率化を進めるオペレーショナルな位置づけから、価値創出に向けたイノベーティブな取り組みへとシフトしています。
澁谷 : 弊社は2002年の設立以降、中小企業の資金調達や事業計画策定におけるコンサルティング、銀行や事業会社向けの研修・講演活動のほか、金融機関のサポートサイト「銀行員.com」や地方銀行連携プロジェクト「地方からの贈り物」の運営を行っていますが、政府による地方創生が叫ばれる中、資産運用や事業継承などもありますが、銀行の役割としてあらためてビジネスマッチングや販路拡大の支援といった活動の重要性が高まっているように見えます。
藤野 : 世界的なフィンテックの潮流を受け、日本でも金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」などで議論されている金融グループによる出資規制の緩和検討にもあるように、これからは、銀行をはじめとする金融機関や地方自治体などでも、これまでの概念を越えたビジネスマッチングによる連携が加速し、新たなサービスが次々と生まれる時代がすぐ目の前まで来ています。
澁谷 : 少子高齢化が進む日本において、社会に良い影響を与えるビジネスを生み出し、受け継いでいかなければ、明日の日本経済はありませんから、事業拡大に向けて無我夢中で取り組む中小企業には、これから大きく飛躍してもらいたいですね。
藤野 : 折しも、日本ではコーポレートガバナンスやスチュワードシップ・コードなど、地域社会における先を見据えた事業の将来性や地域における存在意義の再定義、意思決定プロセスの見直しや内部留保の活用による新産業創出へのアプローチといった議論が高まっています。このような中で、世界的なフィンテックの潮流は、まさにベストタイミングだったと言えると思います。
澁谷 : フィンテックについてもっと詳しく知りたいという声を頂くこともあるのですが、一方で、脅威に感じるといった声も聞こえてきます。日本は地域の独自性が強く個別に進めているものも多くありますが、地域活性に向けて横ぐしで連携し、全体を押し上げていく取り組みも必要だと思います。地域金融機関がフィンテックと関連付けて取り組んでいけることはあるのでしょうか?
藤野 : ここ数年で大きく変化したことの一つに、いま起きていることが写真やメッセージ、データを用いてどこからでも可視化・発信ができるようになったということが挙げられます。人が人を呼び、情報に情報が集まり、国境を越えた共感や共有によるプロモーションが可能となり、例えば日本人の目では気づかない外国人から見た日本の良さを発見・発信していくことは、インバウンドの誘致誘引に向けた価値あるキラーコンテンツとなります。また、情報取得や本人確認、与信や決済など、日本を好きになって居住しようという外国人にとって暮らしやすい社会インフラの整備も、人口減少をカバーするための日本国内居住者の増大と消費拡大に向けて欠かせません。今年1月に開催された自民党フィンテック推進議員連盟の勉強会では、政府の目標とするGDP600兆円の実現に向けて、成長を目指す広義のサービス産業が積み増す約100兆円のうち約3割(30兆円)をフィンテックで生み出すつもりで進めてほしいとし、シェアリングエコノミーや既存のサービス産業との連携も同時進行していくことによって産業全体を大きくしていく必要性を唱えました。
澁谷 : 約3割(30兆円)とは大きいですね。それを生み出すためには、例えばどのようなものが考えられますか?
藤野 : フィンテックのスタートアップ企業が恵まれていることは、起業のリスクが従来に比べて大きく減っていることが挙げられます。クラウドの活用などにより、設備投資は少額で済み、専門的なナレッジや知見などもリーズナブルに活用できる環境が整い始めています。そのような中で、さまざまなスタートアップ企業が生まれていますが、一つ注目しているのは社会企業家、NPOの代表を務めているような社会的使命感が強く、粘り強いアントレプレナーが取り組んでいる社会課題解決を、フィンテックの発想による金融・ITインフラの活用によって地域社会への貢献事業として生まれる新産業の創造と雇用の創出があります。日本中のあらゆるボランティア活動が事業として収入と消費を生み出す仕組みにシフトすることで、大きなエンパワーメントをもたらすこととなることでしょう。
澁谷 : 起業リスクが減っていることは確かですが、具体的にはどのような取組みがあるのでしょうか。
藤野 : 例えば、最近は車の運転データをもとにしたドライブテクニックの評価と、その評価の高いドライバーに手数料割引を行うといったサービスが出てきました。車で家を出て、近所で買い物をして、学校により、自宅に戻る。このような日常の身近な運転に対して点数がつきます。ドライバーは自分の運転のどこでどのような理由で減点されたかが可視化され、スマートフォンの地図上で自分が運転したルートと減点されたポイントと理由をチェックすることで次回からの改善を図ることができるようになります。本来、保険商品とは、統計上、一定の確率で起きる事故のリスクを保険加入者の総数で負担し合うことで成り立つ事業モデルですが、今後は、一人一人の安全に対する意識の高まりにより、事故のリスクの全体の総量が減っていくことで、事故の無い安全な交通社会が生まれます。また、事故が起きやすい交差点や標識の見直しなど道路そのものの改善を図ることも出来ます。今後の交通データの活用アイデアは多岐に渡りますが、少なくとも交通安全に関わるボランティア活動や啓蒙活動が、フィンテックによるデータ解析と利活用によって、サービスとしてより安心安心な地域社会を生み出すための活動へと進化することが期待されます。
澁谷 : なるほど。それは、食事など生活習慣を改善したり、運動をするなど、生命保険でも同じようなことが言えるかもしれません。
藤野 : はい、一人一人が行動を変え、自分だけで改善を図るのはとても大変ですが、それらの行動データを通じたインタラクティブなアドバイスや評価など、社会やサービスとのつながりにより、改善を図ろうとする動機が生まれてきます。そして、より良い社会に向けて、人々の行動、価値観、ライフスタイルの変化につながっていきます。
澁谷 : そうすると、これからは、株式会社とNPOの中間のような企業が生まれてくるということでしょうか?
藤野 : そこは、それぞれの企業の株主と経営がスタンスを決めることとなりますが、最近では世界的にESG投資という言葉にも注目が集まっているように、環境(Environment)、社会( Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業が重視・選別されるという考え方も生まれてきています。限られたリソースをどのような目的に対してどのように使うか、そこに決まった答えがあるわけではありません。ただし、一つ言えるとすると、フィンテックがもたらした大きな変化として、大企業やベンチャーが、その垣根を越えて、多様な組み方をスピード感を持って共創できる時代になったということかもしれません。
澁谷 : 人口減少、高齢化、地域経済の衰退、大都市への人口集中などが進む中、地銀はどのような役割を果たしていけば良いでしょうか?
藤野 : これまでの高度成長期の慣習もあり、社会では多くの優秀な人が大企業に就職し、首都圏や大都市に集中しています。一方で、クラウドソーシングやワーク・ライフ・バランスの拡大など、自由な時間の使い方や副業を認める働き方を許容する動きが広がり始めています。大都市に集中している30、40、50代の大企業のホワイトワーカーが、生き甲斐や遣り甲斐を求め、地域金融機関や自治体と連携し、地域産業の活性化に関わる事業プロジェクトへの再配置を促し、推進していく取り組みも肝要だと思います。
澁谷 : 地域の中だけで何とかするのではなく、首都圏の力を、地域活性につなげていくということですね。
藤野 : 昨年、全国の主要都市の自治体職員を対象とした「地域活性化フォーラム」が開催されました。東京会場には、内閣府特命担当大臣(地方創生、国家戦略区域特別担当) 石破 茂氏が登壇するなど力を入れる動きも出てきています。
澁谷 : 弊社でも昨年11月に「地方銀行 フードセレクション」を開催し、全国の地方銀行の取引先で販路の拡大を希望する「食」関連の企業と食品担当バイヤーの商談の場を提供しました。今年は過去最高の41行、出展社は585社、614ブースという商談会にまで成長しています。
藤野 : 「地方銀行 フードセレクション」は2006年から10回目の開催を迎えたということで、時代を先取りした地域創生に関わる取組みとして他にはない歴史と価値のある取り組みだと思います。その一方で、2019年に開幕を予定しているラグビーワールドカップ、そして、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなど、世界中から外国人を日本に招き、日本を世界に向けて発信する絶好のチャンスを最大限に活かし、その先の持続的な地域創生につながる仕組みづくりのための準備に、残された時間は多くはありません。
澁谷 : 創業はし易くなりましたが、金融機関による創業支援はまだまだ本腰が入っていると言えません。貸し出しにつながらない、時間がかかる、成功するのはごく少ないなど、いろいろ理由はありますが、秘策はあるのでしょうか?
藤野 : 貸し出す側、支援する側が、何を成功のゴールとするか、再定義する必要があると思います。先を見据えた持続的な未来の事業性を評価し、創業支援の条件として、能力やビジョンだけではなく、困難を乗り越える高い志と継続力も重要なファクターです。最近では、チャレンジコンテストやアクセラレーションプログラムを用意する金融機関も増えるなど、決算書や事業計画書に加え、ある一定の条件をクリアした企業がより優位な条件で支援が受けられるよう、競争力を高めていく仕組み作りも必要になってくると思います。また、金融機関や自治体が持つ巨大な顧客基盤とマーケットに対して、いかに消費や行動を刺激するアイデアと結び付けていくことができるか。そして、クラウド化が進む会計データと士業の専門性を融合し、支援先の経営者と同じ目線で事業計画の一歩先を行く未来予想を示しつつ、変化に応じた経営の軌道修正や販路拡大を支援し、支援先の事業を通じて社会に対してどのような良い影響を与え続けていくことをミッションとするかについて、常に一人一人が明確に持っておくことが肝要です。
澁谷 : そうですね。銀行の役割として、これからはフィンテックを活用した新しいビジネスマッチングが求められそうです。現在の日本を取り巻く環境変化や少子高齢化といった下で、いかに地域創生の実現に貢献していくことが出来るか、これからも「親身で適切な助言とソリューション」を求める企業経営者の方々のご相談に乗り、地域金融機関や地方自治体とともに企業を発展させるお手伝いに努めていきたいと思います。ありがとうございました。
(取材、撮影、記事、編集・制作 : GoodWayメディアプロモーション事業部 @株式会社グッドウェイ )