■アクティブ型投資信託でも「低コスト」へのこだわりは重要
「アクティブ型投資信託とパッシブ型(インデックス型)投資信託では、どちらが優れているか」――投資信託の世界で長年議論されているテーマの一つと言ってよいでしょう。今回は、いくつかの調査データを用いながら「アクティブ型VSパッシブ型」について考えると共に、よりよいアクティブ型投資信託を選ぶにはどこを見ていけばよいのかをお話したいと思います。
まずお伝えしたいのが、アクティブ型投資信託でもコストにこだわることの重要性です。従来、コストの重要性はどちらかというとパッシブ型投信でよく言われてきました。しかし、データを見るとアクティブ型投信でも低コストにこだわるべきだということがわかります。
それを示したのが、米国のモーニングスターが半年に一度調査結果を公表している「アクティブ/パッシブバロメーター」です。アクティブ/パッシブバロメーターは、パッシブ型投信の平均リターンに対して、どのくらいアクティブ型投信が上回ったのかを「サクセスレート(勝率)という数値で示しています。
●カテゴリー別アクティブ型投資信託のサクセスレート
いちばん上の「U.S.Large Blend(成長株と割安株の両方を含む米国大型株)」を例に説明すると、10年の運用期間では同じカテゴリーでパッシブ型投信の平均を上回ったアクティブ型は11.2%しかないということを表しています。言い方を変えると、10年経つとアクティブ型の9割近くがパッシブ型に負けてしまっているということです。ただし、コストに注目すると少し状況は変わります。最もコストが低い25%に限ると、勝率は17.5%まで高まります。一方、コストが高い25%では、パッシブ型の平均を上回るアクティブ型投信は4.0%と、全体に比べてさらに低い結果となっています。
これは、別のカテゴリーで見ても同様で、明らかに「コスト水準によって勝率が左右される」、つまり「コスト水準が低いアクティブ型投信のほうが、パッシブ型の平均を上回る率が高くなる」と言えます。また、10年という期間もポイントで、長期保有の場合には特にコストの違いが効いてくるということです。
この調査結果は米国籍の投信についてのものですが、日本の個人投資家にとっても非常に示唆に富む内容だと考えます。
■国内大型株のアクティブ型は、低コストなら10年で勝率7割超!
モーニングスターには、資産ごとにアクティブ型・パッシブ型に分けてコスト水準で5段階評価をした「フィーレベル」というコストの指標もあります。このフィーレベルとリターンの関係を調査した結果からも、アクティブ型投資信託におけるコストの重要性がわかります。
ここでは、国内の投資信託で「国内株大型・アクティブ」のカテゴリに属する378本についてフィーレベル別に見たトータルリターンの違い(対TOPIX(配当込))と、そこから見えてくることを簡単に説明します。
●フィーレベル別の対TOPIX(配当込)勝率
この表では、フィーレベル別に過去1年、3年、5年、10年のトータルリターンが、TOPIX(東証株価指数)の配当込みのリターンを上回ったファンドの比率を「勝率」としています。実は、過去5年間はいわゆる「アベノミクス相場」にあたるため、フィーレベルの差による勝率の違いはそれほど出ていません。
「国内株大型・アクティブ」の投信のフィーレベル別のコスト平均は、「安い」が1.03%、「高い」では1.90%ですが、アベノミクスで1年に20~30%も上がった相場では年率約0.9%程度のコスト差は、それほど大きな影響にはならなかったということです。
しかし、10年間という長期で見るとコストの影響が大きいことが数字にはっきりと表れます。「安い」に分類されているアクティブ型投信では、77%(35本中27本)がTOPIX(配当込)のリターンを上回っています。一方、「平均より高い」の勝率は30%、「高い」は38%に留まっていて、フィーレベルが「安い」に属するものより明らかに勝率が低くなっています。
つまり、高い信託報酬がパフォーマンスの押し下げ要因になっているということであり、長期投資を考えた場合にはアクティブ型投信であってもやはり低コストにこだわることが非常に重要だと言えるのです。
■アクティブ型VSパッシブ型のレーティング比較から見える問題点
次に、カテゴリー別にリスク調整後のリターンを5段階評価した「モーニングスターレーティング」から、「アクティブ型VSパッシブ型」の現状を見ておきましょう。
●アクティブ型・パッシブ型別のレーティング分布
このグラフは、国内投信を対象にアクティブ型とパッシブ型のレーティング分布をまとめたものです。低パフォーマンスに分類される2ツ星以下ではアクティブ型がパッシブ型を大きく上回り、逆に高パフォーマンスである4ツ星のレーティングを得ているのは、アクティブ型よりパッシブ型の比率が高いことがわかります。
このように、全体としてはアクティブ型が劣勢という傾向が見て取れます。ただ、下の表のとおり、カテゴリー別で見た場合にはすべてが劣勢というわけではなく、アクティブ型投信が健闘してパッシブ型のレーティング平均を上回っている資産もあります。
●カテゴリー別のアクティブ型・パッシブ型レーティング平均
この中で、私が気になったのが「ワースト2」の「国際株式・グローバル・除く日本(F=為替ヘッジなし)」です。日本の投資家が海外株式に投資しようという場合の代表的な資産クラスで、先進国の株式に幅広く投資します。代表的なベンチマークは「MSCIコクサイ(除く日本)」になります。
この「国際株式・グローバル・除く日本(F)」のアクティブ型投信のレーティング平均が、パッシブ型の平均を1.39も下回っている点に注目してください。なぜなら、「国際株式・グローバル・除く日本(F)」は長期の資産形成を考えたときの資産の「コア」になる非常に重要な資産クラスだからです。にもかかわらず、パッシブ型のレーティング平均を大きく下回っているというのは、このカテゴリーに優れた投資信託が少ない状況を示していると言えます。
国内株については、日本がマザーマーケットということもあり、アクティブ型でも優れた投資信託はあるのですが、こと国際株式となると、投信先進国の米国と比べると大きく状況は異なります。米国では国際株式に限らず非常に長期で運用されているロングセラーのアクティブ型の投資信託があり、そうしたアクティブ型投信が高いレーティングを付けています。
一方、日本ではどちらかというと海外株に投資するアクティブ型では、オーソドックスなものよりテーマ型に人気が集まる傾向があります。今だと、たとえばAIやビッグデータ、自動運転などです。こうしたテーマ型のアクティブ型投信は、旬の間はパフォーマンスがいい場合が多いのですが、一時期で人気が終わる可能性もあります。長期で保有することを考えると、もっとオーソドックスで割安株あるいは成長株の中の有望株に投資していくような商品が出てくることが望ましいと考えます。ただ、現状では日本のアクティブ型投資信託でそうした運用を行っており、パフォーマンスがよいものはまだ少ないと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、カテゴリー別のアクティブ型・パッシブ型のレーティング平均で見て欲しいのは、あくまで全体像です。単純に、アクティブ型のレーティング平均がパッシブ型を上回っているカテゴリーなら、アクティブ型を選んでも大丈夫という話ではありません。こうした現状を踏まえた上で、個別のファンドごとにコストやパフォーマンスを見ながら選んでいくことが重要です。
■楽しみながら、よいアクティブ型投資信託を見つけて欲しい
今回はコストとレーティングの現状から、「アクティブ型VSパッシブ型」について解説しましたが、このように見ていくと「それなら、コストの低いパッシブ型の投資信託でよいのではないか」と考える人もいるでしょう。
確かに、長期のパフォーマンスで見ると全体的にはパッシブ型が優位という状況です。最初にご紹介した米国の「アクティブ/パッシブバロメーター」の調査結果を見ても、低コストだからといって必ずしもパッシブ型に勝つわけではありません。そのため、投資初心者で何を買えばいいのかわからないという方であれば、まずはパッシブ型投資信託を買う、という選択も妥当かもしれないと思います。
ただ一方で、平均的なパフォーマンスでは物足りない、多少リスクを取っても積極的にリターンを狙いたいという個人投資家もいるでしょう。全体的には厳しい状況とは言え、アクティブ型投信の中にもよい商品はあります。そこで、アクティブ型投信を選びたいという方には、今回説明したように「コスト」にも気を配った上で優れたファンドを探していただきたいと思います。
ところで、投資信託を選ぶ際に「過去のパフォーマンスは関係ない」という意見があります。アクティブ型投信の場合、たとえばファンドマネジャーが変わるなどして運用の特性が変質していることもあるので、確かに過去のパフォーマンスが参考にならないこともよくあると思います。過去のパフォーマンスが将来のパフォーマンスにつながるわけではない、ということです。
それでも、過去のパフォーマンスは参考にできる重要な情報のひとつだと考えます。いくら目論見書でさまざまなことを言っても、やはり数字はごまかせないからです。モーニングスターのサイトの投信検索ページなどもご利用いただいて、パフォーマンスやコストなどをカテゴリー平均とも比較しながら、パフォーマンスやコストなどの面からよい商品を選んでいただく、という方法をまず個人投資家の方にはおすすめしたいですね。
●モーニングスターの投信検索ページ
また、定性的な情報にもぜひ目を向けていただきたいと思います。すでに述べたように、個人投資家に公開される情報は限られてはいます。しかし、運用会社によっては、運用の中身について積極的に開示しているところもありますし、優れたファンドマネジャーがいれば、月次報告書などからもどのように銘柄を組み入れているのか鋭い着眼点が漏れ伝わってくるものです。
アクティブ型投資信託は、ベンチマークと同じような、あるいは類似ファンドと似通ったポートフォリオでは、当然同じようなパフォーマンスしか出せません。対ベンチマークで言えば、ベンチマークの銘柄やセクターと差をつけることで、うまく見通しが当たればベンチマークを上回るパフォーマンスを上げられます。初心者の方には難しいかもしれませんが、月次報告書や目論見書といった開示資料を見る中で、運用の姿勢や銘柄選びの観点なども読み解いていくことも投資の「楽しみ」の一部だと考えます。興味があれば、ぜひ挑戦して欲しいですね。