2015年7月8日(水)、Nicogoryは、東京大学産学連携プラザにおいてNicogoryリリースイベント「人工知能で法律専門家の仕事は奪われるか」を開催した。
同社は、2013年9月に設立した大学発ベンチャーで、必要なときに必要な人が法制度を利用できる社会にするために、法利用に関するデータ、やりとりの標準化や、独自の人工知能技術によって法律問題の最適化を行っている。2015年7月13日(月)に士業とユーザの最適につなぐサービス「NiCO Matching」をリリース、続いて、2015年7月15日(水)には、法律問題を気楽に解決できるサービス「Nicogory」をリリースした。また、2015年9月には法律専門家の業務補助ツール「NicoSys」のリリースを予定しているという。
まず、Nicogory 代表取締役 浦野 幸氏が登壇した。浦野氏は、法律は人々が日常生活の中で円滑に生産活動を行うためのものであるのにもかかわらず、十分に利活用ができていないと指摘した。
法律が人々に十分に利活用されていること、真に「“法の下の平等”を現実化」するためには、従来のような新たな法制度の制定、局所的な問題解決サービスの提供によって利用を促進するのではなく、法律の提供プロセスそのものを時代に最適化していけるような新たなしくみの必要性を論じた。そのためには、法令データの最適なかたちでの標準化、問題が顕在化される前の一般利用者の行動を分析する重要性を述べ、2年間の歳月をかけて開発してきた「Nicogory」、「NiCO Matching」、「NicoSys」について紹介、「Nicogoryは人と法と社会をシームレスにつなぎます。」と締め括った。
次に、表参道司法書士事務所 司法書士の佐藤 貴弘氏、長岡 健太氏による、司法書士漫才を繰り広げた。人工知能に関しては現状の事務処理を省くためにぜひ導入したいという期待はありつつ、士業でさえも2045年のシンギュラリティ(技術的特異点、機械が人間を超えるとき)には職探しが必要という深淵な話題をコミカルに伝えた。
続いて、パネルディスカッション「人工知能で専門家の仕事は奪われるか」では、弁護士法人Next 弁護士 多田 猛氏、司法書士法人名南経営 司法書士 荻野 恭弘氏、行政書士事務所 Necogory 行政書士 山内 聡氏、北海道大学大学院 情報科学研究科 教授 荒木 健治氏が登壇した。
まず、人工知能を専門とする荒木氏は、「現時点では人工知能は過渡期であり、将来、人工知能は一瞬に無限に賢くなる、人工知能が人間の職を奪うことが出てくるだろう。」と述べた。特にディープラーニングという新たな技術は、これまでのアルゴリズムとは違い、何も設定しなくても無限に賢くなる可能性が出てきたため、ロボット倫理学のような、人工知能がどうあるべきかを考える必要が出てきたとした。
また、多田氏は、「人工知能が職を奪うかどうかは五分五分とし、だいたい現在においても、検索すれば、間違いも多いが法律の問題のほとんどが解決できることが多い。」と述べた。さらに、人工知能が発展しても、クリエイティブな弁護士の仕事、例えば、相談や答弁などの仕事はこれからますます増えると指摘した。
荻野氏は、これまでの知識の独占型の士業では、人工知能に取って代わられるが、コミュニケーション能力、クリエイティブ能力が必要なものは、しばらくは、人間が人間である上で必要な能力として生き残るだろうとした。また、超高齢化社会においては、新たな社会問題が巻き起こるため、人工知能にできない新たな職業が生まれるだろうと指摘した。
山内氏は、人工知能によって人間の仕事が奪われてもいいと述べた。定型業務は確かに人工知能化しやすく、これにより、我々の生産活動がより活発になっていくとした。人間を含んだ人工知能、人工知能に取り込まれた社会を強調し、それらを統制するより高度な専門家というものが重要になると指摘した。
最後の挨拶は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授の中西 崇文氏が登壇。「これまで、情報や知識はストックする時代であった、例えば士業においても、知識を提供することにより対価を得ていた部分があるが、これからの時代は、情報や知識がフローする時代が来る、コミュニケーションしていくことにより、新たなビジネスを創造するという、コミュニケーションとクリエイティブが重要となるだろう。そのためには、法律という切り口から、人と法と社会をシームレスにつないでいく、ということが重要であり、そこにチャレンジするNicogoryの取組みに注目いただきたい」と述べた。
人工知能について、人工知能によって奪われる職業と言われている士業の方々によって語られるという、ユニークかつ示唆の多いイベントとなった。
(写真、記事:Nicogory提供 / 編集・制作 :村上 遥 @株式会社グッドウェイ )