ファイナンス稲門会は 金融分野を対象にして”Share the knowledge”を合言葉に、圧倒的な数を持つ早稲田大学のネットワークがもたらす知識の共有化を目指している。会場には不動産テックに関心を持つビジネスパーソンなど多数の参加者が訪れた。
当日はまず、小山 大輔氏(LIFULL グループ経営戦略部事業開発グループ)が、同社の事業内容、施設内容について解説。また、日本の住宅・不動産市場の抱える大きな課題をICT(情報通信技術)で根本的な変革を起こすべく、2017年7月24日に予定されているReTechによる"今"と"これから"の暮らしの変化を加速させる熱いトークセッション&ピッチイベント「ReTech Boost」について紹介した。
続いて、「イントロダクション:不動産テックの全体像」では、赤木 正幸氏(リーマルエステート 代表取締役社長)が、2017年6月にプレスリリースした「不動産テック業界カオスマップ」について大きな反響があったことを紹介。現在、第2弾を作成中で、各企業の資金調達の状況とビジネスモデルの解明についてもレポートする予定で、2017年8月21日に解説セミナーを予定していることを明らかにした。
この後、不動産テックの最前線で活躍する各登壇者によるプレゼンテーションが行われた。
1人目は、「不動産・住宅情報サイト『LIFULL HOME'S』の戦略 × 不動産テック」と題して、野口 真史氏(LIFULL Chief Data Officer, LIFULL HOME'S事業本部グループデータ戦略部 部長)がLIFULL HOME'Sの戦略、不動産テックの目指すところについて解説。野口氏は、LIFULL の今後の事業の中心となるライフデータベースの構築を担当。「HOME'Sは743万件の不動産物件を掲載しており、情報の非対称性、不動産業界の信頼性の向上、業務効率向上、空家問題などを解消することを目指している」と述べた。 プレゼンテーションの中で野口氏はグローバルベースの不動産価格指数の構築に取り組んでいることを紹介。また、ITを活用して不動産業界の業務を効率化、空いた時間を顧客への提案の時間に使うなど、LIFULL が取り組んでいる新しい価値の提供の方向性についても紹介した。
マーケティング分野では、自社のデータと外部データをつなぎ、顧客ニーズの把握を目指しているDMP(データマネジメントプラットフォーム)について過去5年間の取り組みを紹介した。
2人目は、「テクノロジーにより変貌する金融・不動産市場」と題して、谷山 智彦氏(野村総合研究所 コンサルティング事業本部デジタル事業推進室 上席研究員)が「テクノロジーが金融や不動産をどう変える可能性があるのか?」について解説。谷山氏は「今後は技術が個人のニーズに如何に寄り添えるのかといったカスタマイズ性やマッチング、シェアリング、AIを使ったサポート、代替などが産業に対するインパクトになる」とした。不動産分野では「米国と比較して日本の不動産業界の労働生産性は40%に過ぎない。だが、逆にテクノロジーの利用により伸びしろの大きい産業だとも言える」と述べた。 また、「日本で不動産を初めて購入する年齢層は38歳以上だが、この38歳というのは日本ではデジタルネイティブの世代。このため、今後、不動産業界が大きく変わることは確実だが、その中で不動産プレーヤー間での非対称性が表れてくる。情報を持っているだけでなく、情報を有効に活用するか活用しないかで新しい企業間格差が広がる」と語った。
3人目は、「不動産クラウドファンディングの法的留意点~許認可から最新改正法まで~」と題して、成本 治男氏(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)が、不動産クラウドファンディングの法的な留意点について解説。成本氏はクラウドファンディングについて「ネットを通じて小口・少額の資金を多数の投資家から集める」こととした。その類型として、投資型、購入型、寄付型があり、投資型にはファンド型、貸付型、株式型があると述べた。海外と日本のソーシャルレンディングの違いのほか、クラウドファンディングは、利回り+αのお金の集め方に向いているとし、+αは例えば地域創生、宗教法人、病院など例を挙げた。 4人目は、「不動産特化型クラウドファンディングの実務~『OwnersBook』の事例と業界の課題~」と題して、岩野 達志氏(ロードスターキャピタル 代表取締役)が、自己紹介と創業の経緯について述べた後、同社の事業であるOwners Bookについて解説。Owners Bookは2014年にスタート。不動産の専門家が不動産に特化して運営しているところに特長があるとした。現在約17億円を運用。創業の動機は「日本で個人が不動産投資をしようとしても、適切な手段がなかったこと。少額でも投資できるものを作っていきたいと思った」ことと岩野氏は述べた。 また、北米・アジアの世界市場を見てもクラウドファンディングは3兆円程度の規模で、日本は500億円規模。「まだまだ日本の市場は小さい。今後、若い世代が新たなツールとして使っていくのではないか」と語った。
また、今後、個人が不動産投資を行うためのITプラットフォームの充実に加え、メザニンローンの提供を目指していることを解説した。
続いて、野口氏、谷山氏、成本氏、岩野氏、赤木氏と参加者との全体質疑が行われた。その後、懇親会へ。
不動産テックは、生活に身近な空間(街、エリア、空間、建物)や衣食住をつなぐ従来の業界構造やバリューチェーンを変える破壊的イノベーションとなり得る可能性があり、潜在的に大きなイノベーションが巻き起こるテーマといえる。今回の不動産Techの動向と新たなサービスの登場に注目したい。
(記事:丸山 隆平 / 取材、撮影、編集・制作 : GoodWayメディアプロモーション事業部 @株式会社グッドウェイ )