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2016/11/21

【FPアソシエイツ&コンサルティング】「リターン」ではなく「シャープレシオ」と「標準偏差」に目を向けることで、本当によい投信選びが可能になる~FPアソシエイツ&コンサルティング チーフ・エグゼクティブディレクター 神戸孝さんに聞く(ネット証券4社資産倍増プロジェクト)

| by:ウェブ管理者


投信を選ぶときには、「リターン」ばかりに注目してはいけない


 投資信託を買いたいけれど「よい投信」を探す方法がわからない、と悩んでいる人は多いようです。投信評価会社のモーニングスターやネット証券のウェブサイトには、条件を入力して投信を検索できるサービスがありますが、一体どんな項目に注目して検索すればよいでしょうか。


 最初に「トータルリターン」をチェックする、という個人投資家はけっこう多いのでは? しかし、私が見て欲しいと考えるのは、「シャープレシオ」と「標準偏差」という2つの指標です。逆に、「トータルリターン」は見る必要がないかもしれません。


 なぜなら、トータルリターンはあくまで「時の運」の結果だからです。この時期はたまたま日本株の調子がよかった、この時期には先進国の株が上昇した…というように、リターンはそのときどきの市場環境に大きく左右されます。そんな過去の「時の運」に頼って投信を絞り込んでも、あまり意味はありません。実際、私がファイナンシャル・プランナーとして個人のお客様に資産運用のアドバイスをする際にも、リターンを見て投信を選ぶことはありません。


 では、「シャープレシオ」と「標準偏差」に注目する理由はどこにあるのでしょうか。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。


シャープレシオは、「ローリスク・ハイリターン」のファンドを探すための指標


 そもそも「シャープレシオ」って何? と思った人もいるかもしれません。一言で説明すると、シャープレシオとはリターンをリスクで割った数値で、「1リスクあたりのリターン」を表します。別の言い方をすると、「なるべくローリスクでかつハイリターンな投信」を探すためのモノサシと言えます。


 ローリスク・ハイリターンなんていう都合のいい投信があるわけない、と言われそうですが、シャープレシオを使えばそういう運用効率のよかった投信を探すことが可能です。あくまでも過去の数字であり、ファンドマネジャーが交替するようなことがあれば話は別ですが、シャープレシオの高い投信を買えば、購入後も引き続き効率のよい運用を期待できるはずです。


 さてシャープレシオは、「(投信のリターン-無リスク利子率)÷投信のリスク」で求めることができます。無リスク利子率とは、リスクを取らずに得られるリターンの割合のことです。個人の方なら、普通預金の金利を思い浮かべていただければよいでしょう。


 


 図では、下記のように表すことができます。縦軸がリターンで横軸がリスク、線の傾きがシャープレシオです。シャープレシオの値が大きければ大きいほど、つまり図では左上に行けば行くほど、小さいリスクで高いリターンが得られる運用効率のよかった投信だと言えます。


 わざわざ、シャープレシオを自分で計算する必要はありません。モーニングスターや一部のネット証券の投信情報ページには投信ごとにシャープレシオが記載されています。また、モーニングスターの投信検索ページでは、シャープレシオの計算期間を選んで、カテゴリー内で分類平均より高いか低いかといった条件で、投信を絞り込むことも可能です。


 シャープレシオの数値は高いものを選ぶのが原則です。利用の際には、2つのポイントを押さえておきましょう。ひとつめは、できるだけ長い期間で確認すること。1年、3年、5年と複数の期間を見られる場合には、すべてに目を通しておくことをおすすめします。


 2つ目は、比較する際は必ず同じカテゴリーの投信同士で行なうこと。理由は、まったく違うカテゴリーに属する投信では、シャープレシオを比べてもあまり意味がないからです。日本株なら日本株同士、もっと言うなら、日本株の中でも中小型株型なら中小型株型同士のように細かく区切って、その中でシャープレシオの高い投信を選ぶようにしてください。


「標準偏差×2倍」で最悪の場合、どこまで下がるのかがわかる


 続いて、「標準偏差」について見ていきましょう。投信を選ぶときに皆さんがいちばん知りたいのは、「最悪の場合、この投信はどこまで下がるのか?」ではないでしょうか。「標準偏差」に注目すると、その目安をつけることができます。


 「標準偏差」とは、ある期間で投信がどのくらいブレたか、つまり上げ下げがあったかを示す数値です。標準偏差の数値が小さければ、あまり上げ下げがない、ブレの小さい運用をしている投信だと言えます。標準偏差の数値は、1年、3年、5年と期間を変えても、リターンのように大きくは変わりません。そのため、投信を探すときにリターンよりもずっと「あて」になる数字と言えます。


 ただし、見方には注意してください。たとえば、標準偏差が「17.5(%)」の投信の場合、100万円分投信を購入した際に最大82万5000円(=100万円-17.5万円)くらいまで下がると思ってしまうと間違いです。なぜなら、標準偏差である±17.5万円の範囲に収まる確率は約68%。チャイナショックのような大暴落が起これば、もっと下がる可能性も十分に考えられるからです。


 そこで、やって欲しいのが「標準偏差」を2倍することです。2標準偏差にした場合には、その範囲の上げ下げに収まる確率は約96%となり、大きな暴落が起きたとしてもほとんどの場合はその範囲内に収まると考えられます。


 前述の例では、17.5×2倍で35。この投信は、最悪のケースでは100万円が65万円になる可能性があると考えましょう。つまり、100万円が65万円まで下がっても耐えられる人しか「単品」で持ってはいけない投信と言うこともできるのです。もちろん、ポートフォリオを組んで分散投資をすれば、ポートフォリオ全体ではブレを小さくすることが可能です。


資産形成段階では、「標準偏差」の大きい投信を選んだほうがいい


 注意したいのは、標準偏差の数値は常に小さいほうがよいとは限らないということです。すでにまとまった資産があって、それを着実に運用していきたいのか、もしくは、積立投資でこれから資産を形成していく段階なのかによって、標準偏差の使い方は異なります。


 前者であれば、「減らさないこと」が最も大切になるので、ブレは小さいほうがいい。そこで、シャープレシオが高いものの中から、標準偏差の数値が小さい投信を選ぶのがおすすめです。けれども、後者の場合なら、シャープレシオが同じくらいであれば、標準偏差の大きい、つまりブレの大きい投信を選んだほうがよいでしょう。


 なぜなら、定額積立方式の場合は、積立途中で基準価額が大きく下落すれば、その分多くの口数が買えて、平均取得単価を下げることができるからです。そこから基準価額が戻れば、少しずつ着実に上がり続けたケースより最終的には資産が増えるということになる可能性が高いからです。


 いわゆる「ドルコスト平均法」の考え方ですが、ブレの小さい投信ではドルコスト平均法のメリットは「気のせい」レベルに留まってしまいます。積立投資でこれから資産を作ろうという人は、シャープレシオが高く、かつ標準偏差の大きい投信に注目してみましょう。


バランス型ファンドを参考に、まずは資産配分を考えるところから始めよう


 ここまで、投信を選ぶ際に「シャープレシオ」と「標準偏差」を見ることがなぜ重要なのかを説明してきました。ただ、実際に個人の投資家がゼロから投信への投資を考えるときには、いきなり個別の投信を選ぼうとせず、まずは資産配分をどうするかというところから始めるべきでしょう。


 資産の配分をどのように考えて、ポートフォリオを組めばよいのか。いろいろなポートフォリオがありえますが、簡単なのは既存のバランス型ファンドを参考にするという方法です。ご存じの方が多いと思いますが、バランス型ファンドとは、国内外の株や債券などの値動きの異なる複数の資産に分散投資するタイプの投資信託です。複数の資産に分散して投資することで、全体としてリスクを低く抑えることが可能です。


 手順としては、まず評判のよいバランス型ファンドをいくつかピックアップして、それぞれのシャープレシオを確認します。バランス型ファンドの場合は、資産比率の調整まで完全にファンドにお任せなので、これまでの運用の良し悪しはすべてシャープレシオに表れていると言ってもいいでしょう。そこで、シャープレシオが高いファンドを選んで、そのファンドの資産配分の比率を参考に、ご自身の資産配分を決定するわけです。


 資産の配分比率が決まったら、次はそれぞれの資産クラスごとに買うべき投信を、投信検索サービスを使って「シャープレシオ」と「標準偏差」に注目しながら選んでいきましょう。


 ちなみに、バランス型ファンドには、状況に応じて配分比率を見直すタイプ(リアロケーション型)もありますが、初心者・初中級者が参考にするならリバランスのみでリアロケーションはしないタイプのほうがいいと思います。


運用の上手な投信なら、長期で保有することができる


 さて、「シャープレシオ」と「標準偏差」以外で可能であれば確認しておきたいのが、リスクとリターンのバランスを視覚的にとらえた「リスク・リターン分析」です。モーニングスターや一部のネット証券の投信情報ページで見ることができます。


  リスク・リターン分析は、同じ資産クラスの中でのファンドの比較に使います。モーニングスターのサイトでは、複数の投信をひとつのリスク・リターン分析の図に表示することはできないので、可能ならばエクセルなどを用いて一つのグラフにし、できるだけ左上に位置するものを選ぶのがポイントです。


 最後にお伝えしておきたいのは、運用が上手な投資信託は長く持ち続けていいということです。個別株の場合は、大きく上がったらどこかで下げに転じるので売りどきを考えなくてはいけません。しかし、投信は中で銘柄が入れ替わっていきます。ポートフォリオ運用でリバランスさえ行っていれば、「上がったからそろそろ売らなければ」と考える必要はありません。だからこそ、投信は長期投資に向くのです。


 そして、中身を上手に入れ替えて、効率のよい運用をしてくれる投信かどうかを判断する有力な指標がシャープレシオです。「儲かりそう」という理由で直近のリターンが高い投信を買って、すぐに乗り換えようとするのではなく、シャープレシオというモノサシに注目して運用の上手い投信を選んで長期保有して欲しいと思います。




神戸 孝 (かんべ たかし)
FPアソシエイツ&コンサルティング株式会社 代表取締役

㈱三菱銀行、日興證券㈱を経て、1999年独立系FP会社の老舗的存在といえるFPアソシエイツ&コンサルティング㈱を設立。自ら個人・法人等のコンサルティング、各種講演会・研修会の講師などを行う傍ら、全国の独立系FPのための支援ビジネスも展開している。FP歴は日興證券㈱勤務時代を含めると約30年、資産運用に強いFPとして評価が高く、金融審議会専門委員や金融広報中央委員会の金融経済教育推進会議委員なども務める。
「勝つ投資信託」「NISAで儲けろ」(いずれも朝日新聞出版)など著書多数、近著(監修)に「気づいたら貧困層!?」(KADOKAWA)がある。




(取材・記事:肥後 紀子 / 撮影:柴田 潔 / 編集・制作:グッドウェイメディアプロモーション事業部)

(オリジナル記事掲載元:ネット証券4社共同プログラム「資産倍増プロジェクト」ネットで投信を買う!





16:26 | 写真:投資家向け




 

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