2014年7月1日(水)、港区三田にあるテクマトリックス本社において、デリバティブ商品評価・分析の世界標準ツールをグローバルに提供している FINCAD ディレクター・アナリティクス トニー・ウェブ氏とのインタビューが行われた。今回は、オブジェクト指向型プライシングソリューション「F3」に新たに実装された新機能で、全ての商品やモデルに対して普遍的にトレーディングパフォーマンスを向上させる Universal Algorithmic Differentiation を中心に、そのポイントとメリットについて紹介する。
<インタビュアー> テクマトリックス カスタムメイドソリューション事業部 カスタマーソリューション営業部 金融ソリューションチーム 主任 髙田 光範 氏
Q1. 前回の来日からおよそ1年半が経ちましたが、その間、世界と日本の経済状況、そして金融機関のビジネスの変化についてどのような印象を持っていますか?
昨今、特にヨーロッパにおいてマイナス金利が広がりその度合いも増えています。その影響により、金融機関はモデルの見直しという課題を抱え、システムプラットフォームのアップグレードなどが求められており、FINCADへの問い合わせも増えています。既に 各企業においては担保管理の効率化など、LIBOR ディスカウントから OIS(Overnight Index Swap)ディスカンウトに切り替わり数年が経過していますが、引き続き、適切な金利カーブを用いたデリバティブ評価による裏付け資産と資本の状況を注意深く見ていく必要があります。
Q2. 2015年6月にバーゼル銀行監督委員会から発表されたIRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book)では、銀行勘定で保有する国債や住宅ローンの金利リスクについてもトレーディング勘定の金利リスクと同様に自己資本比率の計算に組み入れていくという指針が与える影響について、どのように捉えていますか?
指針の内容はともかくとして、例え裏付け資産に対する要件が変わったとしても、高い資本効率を維持していくという点において、どのようにカーブを生成して当初証拠金を計算するかなど、十分な自己資本比率計算ができるようにしておくための取組みに対する関心が高まる傾向は続くと思います。
Q3. 今回の来日の目的について教えてください。
先ず、GMS2015コンファレンスで講演を予定しています。今回は、FINCADだけが唯一提供できると自負している全ての取引のモデルに対して普遍的に高度なリスク計算を実現できる UAD(Universal Algorithmic Differentiation)についてお話しします。また、それと合わせまして、日本の金融機関などを訪ねて意見交換やニーズのヒアリングさせて頂きます。
Q4. UADの特許を取得したと聞いていますが、開発の際に苦労した点や、どのようにハードルを乗り越えたかなど教えてください。
最も苦労した点は、先ずそもそもUADとは何か、他と比べて何が違ってユニークであるかということを、どのように説明すればわかりやすく理解してもらえるのかというところでした。先ほど申し上げた通り、全ての商品やモデルに対して普遍的に適用できるものとなっているので、その開発には高度なソフトウェアエンジニアリングを駆使してメモリや計算時間における効率性が求められました。
Q5. 資本と担保管理の改善に欠かせないポイントを教えてください。また、FINCADではどのようなサポートをしていますか?
証拠金要件をどのように計算するかにもよりますが、FINCADのパワフルで柔軟な当初証拠金計算によって、例えばVaRの計算においても「F3」が最適なツールといえます。複数のシナリオにおいて最適なOISディスカウントカーブを用いて異なる通貨毎に担保管理を行うことが出来ます。
Q6. 最近、ISDA(国際スワップデリバティブ協会)から発表されたSIMM(Standard Initial Margin Model)による標準化のガイダンスによると、大量のセンシティビティの計算が必要になるためUADによる高速処理はとても有用なものになると思われますが、如何でしょうか?
おっしゃる通り、センシティビティはSIMMの重要なインプットの一つになりますので、このような新しいニーズを満たすには「F3」のソリューションがぴったりと合ってくるのではないかと考えています。業界としては、今後の課題として、複数の取引相手から提示される条件をどのようにリコンサイルしていくかという点が挙げられます。
Q7. これまでセンシティビティなど高負荷計算を行う際には、特に日本においては複数のハードウェアを並べて処理するグリッドコンピューティングによる分散計算が一般的でしたが、UADの採用によるハードウェアのコスト削減効果について具体的な数字で教えてください。
UADの採用により、標準的なハードウェアでもセンシティビティの計算を行えるようになります。もちろん、グリッドコンピューティングと組み合わせれば処理速度は大幅に改善しますし、ハードウェアを減らしても同等の時間内で処理を完了できるようになります。具体的な改善効果としては、ハードウェアの台数が100分の1となる、もしくは速度が100倍になるとイメージ頂けたらと思います。
Q8. 現在、顧客からの要望を受けている進行中の取り組みがあれば教えてください。
現在、アメリカやヨーロッパで注目されているMBS(不動産担保証券:Mortgage-Backed Securities)やABS(資産担保証券:Asset Backed Securities)といった仕組債の計算ライブラリーはあるものの、その計算に必要なリファレンスデータについては外部の専門ベンダーとどのように組んでいくかについて検討プロジェクトを進めています。
Q9. 最後に一言メッセージをお願いします。
毎回、日本を訪れる時を楽しみにしています。これからも継続して日本市場でどのようなニーズがあるか、積極的にうかがっていきたいと思います。
FINCAD社は、バンクーバー、ニューヨーク、ロンドン、ダブリン、北京を拠点に金融アナリティクスサービスを展開しているグローバル企業。国内ではテクマトリックスが独占販売代理店として同社サービスを展開しており、金融機関及び企業財務部門向けにデリバティブ商品評価・分析ツール「FINCAD Analytics Suite」、オブジェクト指向型のアナリティクス・プラットフォーム「F3」を提供している。
トニー氏は、2015年7月2日(木)・3日(金)に野村コンファレンスプラザ日本橋で開催されたグッドウェイ主催「GMS2015:FinTechが導く金融サービスの未来~企業の経営モデルと人々のライフスタイル~」で講演『迅速なリスク分析を活用したトレーディングパフォーマンスの向上』を行った。(開催レポートはこちら)
(インタビュー、写真提供:テクマトリックス / 記事、編集・制作:グッドウェイ メディアプロモーション事業部)