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2025/06/13new

【グッドウェイ】生成AIと金融DXのリアルと展望を追う「金融AI EXPO2025」を開催!(午後の部)

| by:ウェブ管理者
 
 2025年5月23日(金)、グッドウェイは「金融AI EXPO2025」を東京コンベンションホールにて開催した。

 本記事では、当日午後の特別講演やパネルディスカッション、表彰式を含む一連のセッションの内容を通して、金融業界における最新の取り組みと各社の実践事例をご紹介する。

特別講演 「生成AIが変える金融モダナイゼーション~レガシーからの脱却~」


 
 生成AIの活用が進む一方、金融機関では依然として「レガシーシステム」の課題が大きく立ちはだかっている。本講演では、小倉 哲哉氏( 三菱UFJトラストシステム 取締役 常務執行役員 )と、勝本 秀之氏( Trust CPO Principal Solution Lead(生成AI X レガシー担当))が登壇し、現場でのAI活用と刷新の取り組みが語られた。

 勝本氏は、Trustが開発した「Trust TLanP」というソリューションを紹介。1980年代から使われ続けるメインフレーム系システムを対象に、手書きの仕様書や古いソースコードなどを生成AIで解析し、可読性の高い情報へと変換。仕様書の自動生成や新旧システムの出力比較による検証支援などにより、調査や設計の工程を大幅に効率化できると説明した。

 対談では、小倉氏が三菱UFJトラストシステムの立場から「開発力の強化」を最重要課題に据えている現状を共有。システム開発の多くが新規開発ではなく、既存システムの改修や影響調査であり、コード生成よりも前工程にこそ生成AIの効果が期待できると語った。実際にTrust社の支援を受けながら、仕様解析やドキュメント整備のPoC(実証実験)も進めているという。

 今後については、単なる自動化にとどまらず、開発プロセス全体の再設計やリテラシー向上、そして品質保証の在り方が大きなテーマになると指摘。現場の理解や品質感に配慮しながら、生成AIを導入・活用していく姿勢が、印象的なセッションとなった。

講演 「金融機関のDX推進における生成AIの活用」


 生成AIの進化により、金融機関のDX推進は新たなフェーズを迎えている。本講演では、及川 恵一朗氏( アルテアエンジニアリング 営業本部 金融法人担当セールスマネジャ )と、井口 亮氏( 金融データ活用推進協会(FDUA) 金融業界横断データ連携PFWG WG長、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー データアナリティクス技術開発部長 )が登壇し、生成AIを活用したデータ統合や業務高度化の可能性について語られた。

 井口氏は、金融業界におけるデータのサイロ化が大きな課題であると指摘。巨大な中央DBの再構築ではなく、仮想的に連携させる「データメッシュ」的な構想が注目されていると述べた。また、共通の社会課題に対して複数の金融機関が連携する事例や、ガバナンスと柔軟性を両立させる連邦型のデータ統治モデルにも言及した。

 さらに、DXの目的は単なる効率化ではなく、パーソナライズドな顧客提案やオルタナティブデータとの掛け合わせによる新たな収益創出にあるとし、データ活用の広がりがサービス変革にも直結する可能性があると語った。

 生成AIの実装に際しては、ハルシネーション(誤情報生成)のリスクや説明責任への対応も不可欠であり、AIエージェントの導入に向けてはセキュリティやアクセス管理を含む統制設計が求められる。技術と実務をつなぐ実践的な視点が光るセッションとなった。

講演 「生成AIを活用するための基盤づくりとは~もはやAIで稼ぐ時代へ突入~」


 
生成AIをいかに業務に定着させ、収益に結びつけるか。その鍵を握るのが「基盤づくり」だ。本講演では、高坂 亮多氏(セゾンテクノロジー CTO)と盛田 哲夫氏(セゾンテクノロジー プロダクトセールスエンジニアリング部)が登壇し、生成AI活用に必要な基盤設計の考え方と、金融機関における具体的な活用事例を紹介した。

 高坂氏はまず、生成AIを業務に本格適用するためには、単発のPoCにとどまらず「再現性ある運用」が必要だと指摘。導入初期からログ取得やデータの前処理方法を標準化しておくことで、全社展開やコスト配賦に向けた判断をスムーズにし、抵抗感なくガバナンスを利かせていく「シフトレフト」の考え方を紹介した。セゾンテクノロジーでは、自社プロダクト「HULFT Square」を通じて、あらゆる生成AIモデルに共通のAPI経由でアクセスし、プロンプトや利用状況のログを一元管理できる仕組みを整備。用途別の利用実績やプロンプト内容を可視化・分析することで、活用の最適化やFAQの自動更新、ガードレールの運用改善にもつなげているという。

 盛田氏からは、実際の金融機関での導入事例が紹介された。セブン銀行では、構内利用の生成AIプラットフォーム「セブンバンクブレイン」とHULFT Squareを連携させ、自然言語でのデータ分析とグラフ生成を実現。オンプレミスやSaaSなど多様なデータソースをまたいだ連携が可能で、生成AIを安心して活用できる環境づくりに貢献している。また、あるネット銀行では、AML対策や審査業務の効率化を目的に生成AIを導入。書類チェックや画像データの翻訳・構造化を自動化し、業務処理量を飛躍的に拡大させることに成功したという。

パネルディスカッション 「生成AIが拓く未来像~SMBCグループの挑戦と展望~」


 
生成AIの社会実装が本格化する中、SMBCグループをはじめとする官民の先進的なプレイヤーが一堂に会し、実践と展望を語り合ったパネルディスカッション。白石 直樹氏( 三井住友フィナンシャルグループ  デジタルソリューション本部 執行役員 デジタルソリューション本部長)、藤本 昌吾氏( 日本総合研究所 技術統括部長)、大久保 光伸氏( 財務省 デジタル統括責任者補佐官、デジタル庁 ソリューションアーキテクト )を迎え、岡田 拓郎氏( 金融データ活用推進協会(FDUA) 代表理事、金融IT協会(FITA) 副理事長、Trust 代表取締役CEO)のモデレーションのもと、多角的な視点から議論が展開された。

 白石氏は、SMBCグループにおける生成AIの業務適用事例として、社内チャット活用による問い合わせ対応や、デジタル子会社での取組事例を紹介。特に、フル生成AIよりもルールベース技術との組み合わせの方が、精度・コスト両面で効果的だったと語り、実務視点での検証結果に注目が集まった。

 藤本氏からは、日本総研での取り組みとして、社内向けAIチャットボットによる業務効率化、ならびにコード自動生成やレガシー対応のユースケースが紹介された。また、今後に向けてはマルチLLMに対応した開発基盤の整備や、人材育成に向けた社内研修・コミュニティ形成にも注力していると語った。

 官民の橋渡し役として登壇した大久保氏は、生成AIを軸とした行政改革や地方自治体でのユースケース、国主導で進むクラウド基盤整備の現状に触れ、民間連携によるボトムアップ型の変革が重要であると強調。特に、アナログとデジタルの混在がコスト高を招いている現状を指摘し、生成AIを活かした新たな業務構築への期待を述べた。テクノロジーの進展と向き合いながら、柔軟に変化を取り入れる企業文化こそが、次の時代の競争力となる。そんなメッセージがにじむセッションとなった。

講演 「金融業界の革新を加速させるAIエージェントの実装 〜ユニバーサルAIプラットフォームによる、統制とナレッジを兼ね備えた次世代AI実践活用〜
 

 生成AIとAIエージェントの活用が急速に進むなか、金融業界の現場での実装に向けた動きが加速している。本講演では、岩下 優介氏( Dataiku Japan 金融営業部 部長 )・木邑 文彦氏( Dataiku Japan セールスエンジニアリング部 シニアセールスエンジニア )、そして佐藤 竜介氏(東京海上ホールディングス ビジネスデザイン部 マネージャー、金融データ活用推進協会(FDUA) 生成AIWG WG長)が登壇し、「金融業界の革新を加速させるAIエージェントの実装」というテーマで、それぞれの立場から最新の取り組みと課題意識を共有した。

 佐藤氏は冒頭、FDUA(金融データ活用推進協会)において自身が携わる生成AI関連のワーキンググループの活動として、金融機関向けの生成AIガイドラインを策定・公開した経緯を紹介。現場での実務に活かせる形で、ルールやユースケース、リスク評価の枠組みを提示したと述べた。今後の改訂では、AIエージェントに関する運用上のリスクや統制設計に焦点を当てた内容のアップデートを予定しており、とくに自律的に動作するエージェントが互いに影響を与え合うことで起こりうる「エージェントジャック」のような想定外の挙動に対しても、備えが必要であると指摘した。

 続いて岩下氏・木邑氏は、Dataikuが提供するAIプラットフォームの特徴とユースケースを紹介。生成AIや機械学習に加え、AIエージェント機能を統合した同社のソリューションでは、オンプレミス・クラウド・外部APIなど多様な環境と接続し、業務に即したデータ処理や意思決定の支援が可能であるという。デモでは、AML(マネーロンダリング対策)領域における異常検知やレポート作成支援の例が紹介され、複数のエージェントが連携して分析・要約・報告を担う流れが示された。また、従来業務で求められる監査証跡の要件にも配慮されており、エージェント出力のログ活用を通じて透明性を保った運用が可能である点も言及された。

講演 「なぜ社内で生成AI活用が進まないか:AI活用の現在地とこれから
 

 生成AI活用の機運が高まる中でも、現場レベルでの定着には課題が残る。本講演では、長谷川 大地氏( WorkX LeanDataX  ディレクター、金融データ活用推進協会(FDUA) 標準化委員会)と中村 義幸氏( セブン銀行 AI・データ戦略部長、金融データ活用推進協会(FDUA) 理事 標準化委員会 委員長代行)が登壇し、「なぜ社内で生成AI活用が進まないのか」を切り口に、取り組み事例とともに実践的な知見が共有された。

 前半パートに登壇した長谷川氏は、フリーランス人材とAI専門人材を束ねるプラットフォーム運営の視点から、コンプライアンス領域における生成AIの応用可能性を紹介。メールやチャットのやりとりに含まれる個人情報や不適切な表現、談合の兆候などを検出する領域について、生成AIと機械学習を活用した分析の有効性が高いとし、自社でもツールの試作・実装に取り組んでいることが紹介された。また、生成AI活用が進まない主な要因として、技術知識への理解不足、業務変革との接続の難しさ、AIありきのテーマ設定による現場の負担感などを挙げ、トップダウンの号令だけでは定着が難しいと述べた。

 後半では、セブン銀行の中村氏が自社の取り組みを紹介。7年前から始まったAI活用が社内組織へと進化し、2025年4月にはAI・データ戦略部が新設されたという。生成AI活用では、日常業務の効率化から着手し、社内で自前の環境「7Bank-Brain」を構築。プロンプトUIの整備や外部ツール連携により、社員の約6割が毎月利用する体制を実現している。ドキュメント検索や自然言語によるデータ分析機能に加え、「社長AI」と呼ばれるインタビュー学習型の応答システムも開発され、将来的には社員ごとのクローンを通じたAIエージェント活用を構想していると語った。


パネルディスカッション 「金融グループ横断でのSnowflakeデータ活用」


 
金融グループ内外のデータをいかに横断的に活用し、AI活用へとつなげていくか。本セッションでは、西潟 裕介氏( 三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部 DX統括推進室 AI推進グループ 調査役・ジュニアフェロー)、須甲 仁志氏( 三菱UFJアセットマネジメント 運用企画部 運用IT戦略室 室長)、佐藤 市雄氏(SBIホールディングス 社長室ビッグデータ担当 部長 兼 SBI生成AI室長、金融データ活用推進協会(FDUA) 理事 兼 企画出版委員会 委員長)の3名が登壇し、上原 玄之氏(Snowflake インダストリー事業開発本部 金融インダストリー統括部長)のモデレーションのもと、Snowflakeを活用したデータ基盤整備の現場について語り合った。

 佐藤氏は、SBIグループが取り組む「データメッシュ」の構想と実装状況を紹介。2012年からビッグデータ基盤の整備を進め、現在はSnowflakeを中心にグループ会社の異なる環境(クラウド、オンプレミスなど)を横断するデータ連携を推進しているという。各社から収集したデータをホールディングス側で管理・整備し、AIアプリやレポートに活用。最近では、社内外での活用実績をKPIとして可視化し、成果の蓄積によって新たな連携先を自発的に引き込む好循環が生まれていると語った。

 西潟氏は、信託銀行におけるデータサイロの解消と、事業部主導によるデータ利活用基盤の構築を説明。Snowflakeを活用し、アプリケーションの共通利用による環境整備や、非構造データの構造化を進めている。生成AIの登場によって、従来よりも幅広い部門でデータ活用の裾野が広がっており、AIと人の双方が扱える柔軟な基盤づくりが重要だと指摘した。また、データ単体ではなくロジックやアプリケーションを含めた「仕組みごと」の共有により、グループ横断の連携が進みやすくなるという実感も共有された。

 須甲氏は、2024年10月にSnowflakeを導入したばかりの立場から、自社の課題と可能性を語った。資産運用業務において非構造なニュース・決算・レポート等のデータを扱う必要があり、今後はそのデータベース化と活用によって業務の高度化を目指しているという。まずはスプレッドシートやオンプレ環境の情報を集約し、小さなユースケースから順に成果を積み上げていく方針を示した。

金融データ活用組織 「FDUAアワード 2025 表彰式 powered by FDUA


 
金融AI EXPOの締めくくりとして「FDUAアワード2025 表彰式」が開催された。主催は一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)。本アワードは、データ活用に関する先進的な取り組みを表彰し、業界全体のレベルアップと実践知の共有を目的とした新たな試みである。記念すべき第1回となった今回は、標準化委員会の白石寛樹委員長(三井住友カード)、中村義幸委員長代行(セブン銀行)らの挨拶に続き、三部門での表彰が行われた。



 まず「特別賞」では、プレゼンターとして佐藤 市雄氏(金融データ活用推進協会(FDUA) 理事 兼 企画出版委員会 委員長)が登壇し、データ活用を通じた人材育成や地域貢献の面で顕著な成果を上げた3社が選出された。クレディセゾンは、「現在の新しい世界を、3年後の普通にする」というコンセプトを掲げ、全社横断でのデータ推進を進めている。三井住友ファイナンス&リースは「全社員をDX人材に」というビジョンのもと、伴走型の基盤整備に注力。伊予銀行は、地域企業との予測・伴走モデルを通じて地方経済への還元を目指す姿勢が評価された。



 次に「データ活用賞」では、プレゼンターとして岡田 拓郎氏( 金融データ活用推進協会(FDUA) 代表理事 )が登壇し、データ活用の仕組みと成果を両立させ、業界全体にも波及する実践が評価された。信金中央金庫は、全国254の信用金庫のうち145行が参加する「心筋DB」プロジェクトを通じ、マーケティングや信用スコアリングの高度化を実現。八十二銀行は、3名の素人行員から始まった小規模な取り組みを、地域金融機関のモデルケースへと育て上げた。りそなホールディングスは、AI活用を意識させず業務に浸透させるサービス「データイグニッション」で他行にも知見を還元している。

 総括として、松橋 正明 氏(セブン銀行 代表取締役社長、金融データ活用推進協会(FDUA) 顧問)より、ビデオメッセージにて発表された。


 最後に「大賞」では、プレゼンターとして中島 淳一氏( 金融データ活用推進協会(FDUA) 顧問 )が登壇し、受賞した日本生命保険を表彰した。2019年、5人と小さなチームから始まった取り組みがいまでは多くのメンバーを巻き込み、全社的なデータ活用へと展開している。FDUA加盟後は標準化委員会や生成AI WGでの活動を通じ、知見を社外にも広く共有している。受賞スピーチでは「褒められることの少ないデータ業務がこうして評価されたことが何より嬉しい」と語り、会場には温かな拍手が響いた。

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(取材、撮影、記事、編集・制作 : GoodWayメディアプロモーション事業部 @株式会社グッドウェイ )




09:16 | 取材:金融・IT業界向け

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