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2025/03/03new

【グッドウェイ】「第17回 AMLコンファレンス2025~FATF第5次対日相互審査に向けた有効性確保と金融犯罪対策~」を開催!

| by:ウェブ管理者
 
 2025年2月7日(金)、グッドウェイは「第17回 AMLコンファレンス2025」を九段会館テラスにて開催し、会場での一般参加者受け入れとライブ配信のハイブリッド形式で実施した。

 AML関連のイベントとしては日本最大規模で、17回目の開催となる本コンファレンスでは、FATF第5次審査に向けた対応をテーマに、警察庁、財務省、金融庁の関係当局や金融機関の実務者、専門家による講演やディスカッションが行われた。


 冒頭の藤野 宙志(グッドウェイ 代表取締役社長)による開会挨拶の後、
小野 勝司氏(あずさ監査法人 金融統轄事業部金融アドバイザリー事業部 ディレクター)による本日のプログラム解説で幕を開けた。

特別講演 「マネー・ローンダリング等対策の現状と課題」

 松井  由紀夫氏(警察庁 刑事局組織犯罪対策部 組織犯罪対策第一課)より、マネー・ローンダリング等対策の現状と課題について講演が行われた。令和5年の財産犯の罪種別状況(被害額)では、詐欺が全体の64.5%(1,625.8億円)、窃盗が28.8%(725.8億円)を占め、特殊詐欺の被害額は452.6億円に達しているほか、SNS型投資詐欺(277.9億円)やSNS型ロマンス詐欺(177.3億円)による被害も深刻化している。

 サイバー事案等では、令和5年のフィッシング報告件数は約120万件で過去最多、インターネットバンキングの不正送金被害は87.3億円に上るなど、発生件数・被害額共に過去最多となっている。JAFICの活動では令和5年の疑わしい取引の届出は70万件を超え、その情報を活用した検挙も増加している。また、マネー・ローンダリング事犯の検挙件数も令和5年は909件と増加傾向にある。さらに、令和6年4月からの士業者(行政書士・公認会計士・税理士)への疑わしい取引の届出義務化など、新たな制度対応についても説明された。

講演 「金融サービスの信頼を守る:グローバル事例に学ぶ取引モニタリングの精度向上

 クリストファー・ジーン氏(SAS Institute Inc. Fraud & Security Intelligence Division Global Head of Banking AML and Compliance Solutions)は「金融サービスの信頼を守る:グローバル事例に学ぶ取引モニタリングの精度向上」と題して講演を行った。FATFが注目する主要リスクとして、人身売買、環境犯罪、貿易ベースのマネロン、国際犯罪組織、暗号通貨など7分野を挙げ、これらに対するモニタリングの重要性を指摘した。

 SASは複雑な取引モニタリングに対し、エンティティ・レゾリューション、包括的な金融犯罪調査、機械学習ベースの検知、AIを活用した有効性検証という4つのアプローチで対応している。具体的な事例として、Citi Global Tradeでは2,500万件の取引処理と90%以上のモデル精度を実現。また、データ品質からシナリオ検証までの一連のプロセスをAIで自動化し、モニタリングの効率化を達成している。

講演 「コミュニティ分析を利用した犯罪ネットワークの発見

 マシュー・フィールド氏(NICE Actimize APAC市場ディレクター アンチマネーロンダリング担当)は「コミュニティ分析を利用した犯罪ネットワークの発見」と題して講演を行った。講演では、マネーロンダリング対策における問題として、組織的犯罪の複雑化と検知の困難さを指摘。具体的な数字として、全金融機関のアカウントの約0.3%がマネーミュール(不正送金の仲介)アカウントと推定され、英国では年間100億ポンドが不正送金に利用されている実態が示された。

 NICE Actimizeは、この課題に対してAMLの検知手法を進化させており、従来のトランザクション分析から、エンティティ分析、ネットワーク分析を経て、より高度なコミュニティ分析へと発展。コミュニティ分析では、犯罪者のネットワークを特定し、関係者間の隠れたつながりを可視化することで、組織的な金融犯罪の検知を可能にする。これにより、疑わしい顧客の特定、犯罪ネットワークの検知、そして規制遵守の強化とリスクの削減を実現することを目指している。

元金融庁検査官対談 「今後の当局との「対話」の着眼点~AML/CFT/CPFの有効性と不正利用対策~

 小野 勝司氏(あずさ監査法人 金融統轄事業部金融アドバイザリー事業部 ディレクター)と山田 真吾氏(のぞみ総合法律事務所 弁護士)より、金融庁の新たなモニタリングアプローチと金融機関の実務対応について講演が行われた。金融機関のAML/CFT対策における有効性検証について、経営陣の説明責任が強く求められる点が強調された。特に、マネロン等対策に係る責任を担う役員が自社の対策について内外に説明できる態勢の構築が重要とされ、機械的・画一的なチェックリストとしてではなく、実効性のある検証の必要性が示された。

 金融庁のモニタリングスタンスとして、「仮説」をベースにした対話アプローチが採用される点が注目され、各金融機関の規模・特性を踏まえた実質的な議論の重要性が解説された。また、法人口座不正利用防止への実務対応として、口座開設時における不正利用防止の強化、多層的な取引モニタリング、警察との連携強化など、具体的な対応策が示された。特に、取引制限等の実務対応において、金融機関が契約法理の中で自己責任に基づく対応を求められる課題についても言及された。

ランチブレイク 特別セッション

 ランチタイムには3つのピッチセッションが行われた。
 久米井 勇人氏(SCSK RegTech Edge 金融ソリューション営業部)
 山下 聡宏氏(山下総合法律事務所 弁護士)による「広がるeKYC:実務での活用と法令の整理」
 大嶋 真士氏(LSEG リスク・インテリジェンス)による「グローバルの制裁動向とデータを軸とした対策について」
 
 また、会場ではランチ後にブース出展者と来場者による情報交換が行われた。

特別講演 「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策ーFATF第5次審査に向けた対応」
 

 奥 愛氏(財務省 国際局資金移転対策室長)より、FATF第5次対日相互審査に向けた日本の対応状況について講演が行われた。FATFは国際的なマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の基準を策定・履行する多国間の枠組みで、その勧告は世界200以上の国・地域に適用されている。

 日本は第4次対日相互審査(2021年8月)で重点フォローアップ国となり、政策会議の設置や法整備等の対応を進めてきた。第5次対日相互審査では、特に有効性評価の審査が重視される。今後のスケジュールは、2028年8月にオンサイト審査、2029年2月に対日審査報告書を採択予定。直近の動きとして、2024年12月には「拡散金融リスク評価書」が公表され、2025年夏にはAPG年次総会が東京で開催予定であることが説明された。

講演 「Transforming AML KYC/KYA with Automation and AI


 佐藤 慶一氏(日鉄ソリューションズ 金融ソリューション事業本部 営業本部 営業第一部 エキスパート)およびムロ・ジャパロフ氏(Fenergo Japan Head of Client Solutions (Japan & APAC) CAMS)は「Transforming AML KYC/KYA with Automation and AI」と題する講演を行った。

 講演では、日本の金融機関におけるAML KYC/KYA業務のデジタル化の遅れと非効率性が指摘され、FATFの指摘事項への対応として金融犯罪リスクへのテクノロジー投資が重要視されている現状が示された。

 Fenergoソリューションは、エンド・ツー・エンドのクライアント・ライフサイクル・マネジメント(CLM)を提供し、AML/KYCオンボーディングから継続的顧客管理、取引監視までを一元管理し、AIを活用してリスク評価、文書処理、レポート生成などを自動化する。これにより、顧客オンボーディングの迅速化、コスト削減、生産性向上などが期待できると結論付けた。

講演 「小さく確実にはじめる業務効率化。見逃されがちな「文書作業のムダ」を削る最新テクノロジー

 渡邊 弘氏(BoostDraft 共同創業者/CRO・弁護士)が、「小さく確実にはじめる業務効率化。見逃されがちな「文書作業のムダ」を削る最新テクノロジー」と題する講演を行った。講演では、人手不足が深刻化する金融業界において、資料作成、特に法的文書の作成・修正作業が業務効率化の阻害要因となっている現状を指摘。金融業界では生成AIの導入が進む一方、情報漏洩や不正確さのリスクから法的文書においては効率化が難しいという課題がある。

 BoostDraftは、Wordに組み込まれ、インターネットを基本的に必要としない形式的作業特化型ツールとして、情報漏洩のリスクを低減しつつ、インデント修正や参照規定ポップアップなどの機能で文書作成を効率化する。さらに、BoostDraft Compareは、ファイル形式を超えた文書比較や新旧対照表の自動生成を可能にし、文書比較作業を大幅に効率化する。これらのツールにより、法的文書作成における無駄を排除し、生産性向上に貢献できると述べた。

講演 「第5次審査に向けた金融犯罪対策の強化:
 Contextual Monitoringとネットワーク分析を活用したFATFの審査論点と新たな金融犯罪への対応
 

 Clark Frogley氏(Quantexa Global Head of Fraud)新村 和樹氏(Quantexa ソリューション・エンジニア)より、金融犯罪対策の高度化に向けた取り組みについて講演が行われた。マネー・ローンダリング対策において、従来の取引ベースのモニタリングから、コンテキストを活用した包括的なアプローチへの移行が進んでいることが示された。特に、自然言語処理、エンティティ解決、グラフ/ネットワーク分析、機械学習等の技術革新を組み合わせることで、より効果的な検知と調査が可能になることが説明された。

 香港金融管理局の事例では、2023年5月の「AML Regtech:Network Analytics」報告書において、ネットワーク分析の導入により、不審な企業/口座の特定が62%増加、AIを活用したSTR提出が319%増加するなど、顕著な成果が報告された。また、マレーシアの銀行での導入事例では、既存のルールベースシステムと比較して82.7%のアラート件数削減に成功するなど、より効率的な金融犯罪対策の実現が示された。

 これらの技術を活用することで顧客と、その取引関係の動的な把握、潜在的なリスクの早期発見、調査業務の効率化など、包括的なリスク管理の実現が可能になると期待されている。

特別講演 「マネロン・金融犯罪対策の現状と課題
 

 齋藤 豊氏(金融庁 総合政策局 リスク分析総括課 金融犯罪対策室長)が、「マネロン・金融犯罪対策の現状と課題」と題する講演を行った。国民の関心不足による継続的顧客管理の回答率の低さ、口座不正利用対策の必要性について指摘。マネロン対策については、FATF第4次相互審査以降、目下は法制度の有効性確保に課題が残っており、金融庁は金融機関自身が有効性検証を行い、態勢を維持・高度化していくことが重要であるとしている。

 講演では、特殊詐欺、SNS型投資詐欺、フィッシング等の金融サービス不正利用の現状と対策も紹介。政府全体の総合対策として、「被害に遭わせない」「加担させない」「ツールを奪う」「逃がさない」の4つの柱を提示。金融機関に対しては、口座開設時の不正利用防止強化、多層的な検知メカニズム、不正手口に着目した検知シナリオの充実が求められた。実際、2024年8月には、法人口座の不正利用防止に向け、口座開設時審査の厳格化、多層的な検知、迅速な対応が金融機関に要請されている。

講演 「口座不正利用防止の当局要請に関する各金融機関の現状と、対応するために超えるべきハードルとは

 島津 敦好氏(カウリス 代表取締役)は、金融機関における口座不正利用防止への取り組みの現状と課題について講演を行った。2023年10月以降のSNSでの口座買取り情報のモニタリングでは、特に法人口座の買取り価格が2023年8月の80万円から12月には300万円以上へと急騰している実態が報告された。

 不正利用の早期発見においては、月間4,700回といった異常な頻度のログインや、1-2分間隔での機械的なアクセスパターンが重要な指標となる。また、OSバージョンやブラウザ設定などの端末情報を総合的に分析することで、口座譲渡や不正利用の早期発見が可能となる。特に深刻な課題として、フィッシング被害発生から資金移動完了までわずか1分44秒という実態が指摘され、リアルタイムでの検知・対応体制の構築が不可欠とされている。
金融機関の取り組み状況は、情報収集、検知ツール導入、運用体制構築、そして高度化フェーズの4段階に分かれており、今後の課題としてITシステム部門とAML部門の連携強化、および金融機関間での不正取引情報の共有体制の構築が挙げられた。
   
パネルディスカッション 「令和6年版犯罪収益移転危険度調査書及び法人口座不正利用防止の当局要請等への実務対応



 最後に「令和6年版犯罪収益移転危険度調査書及び法人口座不正利用防止の当局要請等への実務対応」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。

 パネリストとして佐川 裕氏(みずほ銀行 金融犯罪対策部 金融犯罪対策推進室 室長)、鈴木 朋紀氏(三井住友銀行 AML金融犯罪対策部 副部長)、大島 知子氏(三菱UFJ銀行 執行役員 FATF対日相互審査担当 兼 グローバル金融犯罪対策部部長 兼 グローバル金融犯罪対策室(日本)室長)鈴木 仁史氏(鈴木総合法律事務所 弁護士)が登壇し、小野 勝司氏(あずさ監査法人 金融統轄事業部金融アドバイザリー事業部 ディレクター)がモデレーターを務めた。



 コンファレンス終了後には、ネットワーキングの時間が設けられ、参加者間で活発な情報交換が行われた。

 マネーローンダリング・テロ資金供与対策の実効性向上に向け、官民連携による取り組みの重要性が再確認された本コンファレンスは、次回2026年2月の開催を予定している。

(取材、撮影、記事、編集・制作 :株式会社グッドウェイ@メディアプロモーション事業部 )




17:44 | 取材:金融・IT業界向け

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