グッドウェイは、日本資産運用基盤グループの代表取締役社長 大原 啓一氏を訪ね、現在証券・資産運用業界で起こっている大きな変革と、今後の日本におけるファイナンシャルアドバイス事業の可能性、そしてその中で同社が果たす役割について話を聞いた。
ブローカレッジやアセットマネジメントが中心の金融ビジネスは終焉へ
これからお話することを一言でまとめると、日本の金融業界、特に個人向けの証券・資産運用分野が「ガラガラポン」で大きく変わるということです。まず、すでに起こっていることとしてはブローカレッジ(委託売買業務)の利潤喪失が挙げられます。具体的には、2019年10月に米国の大手オンライン証券であるチャールズ・シュワブなどが株式売買委託手数料を無料化。その流れは日本にも波及し、オンライン証券で株式の売買手数料の無料化、また投資信託の買付手数料の無料化といった米国と同様のことが起こりました。
ただ、ブローカレッジ手数料の無料化は20年前にオンライン証券が誕生した頃からある程度予測されていたとも言えます。実は、この先に起こることのほうがより衝撃的なはずです。それが、証券手数料無料化の陰でひっそりと進みつつある、アセットマネジメントビジネスの終焉です。アセットマネジメントは、日本の場合、端的には投資信託を指します。まだ意外に知られていないかもしれませんが、投資信託はビジネスとしてもサービスとしてももう終わりかかっているのです。
理由を説明しましょう。現在、日本で一般の投資家が購入できる投資信託は約6,200本ありますが、それほど数があっても各運用会社はさらに新しい商品を開発しています。しかし、6,200本の次に出す1本やその次の1本にどんな存在意義があるのか。経済学的に考えれば限界効用はほぼゼロになっていると言えます。また、数が増えると似たような商品が多くなり、運用報酬の低下圧力が発生するため利潤はどんどん下がらざるを得ません。加えて、一部の運用会社は、主にインデックス投信で、運用報酬の切り下げ競争に確たる戦略もなく走っていて、こうした「チキンレース」の動きが緩やかに進行する報酬の低下圧力を非合理的に早め、自分たちの首を絞めているのです。ブローカレッジに続いてアセットマネジメントも、今後数年以内には利潤がすべて消えてなくなってしまうと私は考えています。
ファイナンシャルアドバイスがこれからの金融サービスの主流に
では、ブローカレッジとアセットマネジメントビジネスの消滅後に、個人向け金融サービスの中心となるのは何でしょうか?答えは、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)や地域銀行、保険代理店などによるファイナンシャルアドバイスです。
なぜなら、顧客一人ひとりのゴールを実現するためのアドバイスは付加価値が高いからです。仮に、同じような年恰好のアドバイザーが複数いたとしても、「Aさんというアドバイザー」と「Bさんというアドバイザー」が同じ価値を持つということはあり得ません。「あなたでなければ」という付加価値はコモディティ化しづらく、そのため、利潤も自ずと高止まりするし、サービスとしてもビジネスとしても残っていくだろうと私は考えています。
また、資産運用をする際には誰しも「非合理的」な行動を取りがちです。よくある例としては、大きく下落するような相場では怖くなってしまい、冷静な判断なしに投げ売りしてしまうといったことですが、そうした非合理的な行動を正してくれるコーチング的な役割も付加価値として評価されると考えます。
ファイナンシャルアドバイスの重要性は、米国の主要な運用会社の調査でも明らかになっています。従来の資産運用で重要視されていたアセット・アロケーションや商品選択の付加価値を低く見積もる一方、投資行動のコーチングやゴールの最適化、あるいは貯蓄や取り崩しのガイダンスなど、アドバイスに対しては付加価値があるという結果を出しています。
ファイナンシャルアドバイスに最適なスキームは「投資一任」
「今後はファイナンシャルアドバイスが重要になる」ということを、頭では理解している業界関係者の方は多いと思います。ただ大切なのは、それを踏まえたうえで次にどんな行動を取るべきかということです。金融事業者が、ファイナンシャルアドバイスという新しい付加価値をサービス・ビジネスとして提供したいという場合、候補として挙がる選択肢は、「①FP(ファイナンシャルプランニング)」、「②投資信託」、「③投資助言」、「④投資一任」という4つではないでしょうか。結論から言うと、この中でファイナンシャルアドバイスに最適なスキームは「④投資一任」になります。
なぜ「④投資一任」がベストなのか。一つひとつ見ていきましょう。まず「①FP(ファイナンシャルプランニング)」ですが、ファイナンシャルプランナーの資格では法規制のもとでの投資助言はできません。「この投信がいい」「このポートフォリオがおすすめです」といった具体的なアドバイスを提供し、対価を収受することは法律上できないのです。また、誤解されている方も多いようですが、「②投資信託」の提供付加価値にはアドバイスやアフターフォローといった仕組みは一切含まれていません。投資信託の信託約款で定められる提供役務(付加価値)はあくまで投資運用のみです。もしそうしたファイナンシャルアドバイスが継続的に行なわれているとしたら、それはあくまで対価を伴わないボランティアという整理になります。
顧客一人ひとりと契約を結んで、個々に有償でアドバイスを提供したいと考えるなら、「③投資助言」か「④投資一任」を選ばざるを得ません。ただ、投資助言ではあくまでアドバイスだけで、顧客の資金を預かって取引するわけではありません。アドバイスをもとに実際に商品を取引するのかどうかは、顧客の判断にゆだねられます。しかし、顧客の側に立てば、忙しいのにいちいち売買したり運用したりというのは手間がかかってしまうという問題があります。その点、投資一任サービスであれば、契約の中でアドバイスの提供を明確に定義でき、さらに実際の執行権つまり商品の売買まで可能です。ということで、投資一任こそが今後資産運用で求められるサービス・アドバイスに最も適したスキームだと私達は考えています。
日本と米国での投資一任サービス普及に関する2つの誤解とは
ところで、投資一任のサービス・ビジネスに関して、しばしば話題に上るのが米国との違いです。投資一任を推すことへの反論と言ってもいいでしょう。一つは、「米国にはアドバイスにお金を払うカルチャーがあるが、日本にはないので投資一任の普及は難しい」というもので、加えて「米国ではRIA(Registered Investment Advisor)という投資助言業者が普及している。日本でも投資助言でよいのではないか」もよく言われます。しかし、これらはどちらも誤解です。
米国でも、アドバイスにお金を払ってもいいと考える人ばかりではありません。2018年のある調査では、「喜んで払う」という人が53%、「無料だと思う」が42%で、「カルチャー」と言い切れるほどポピュラーにはなっていないのです。この10年でベビーブーマー世代が退職年齢を迎えたことなどからファイナンシャルアドバイスの必要性、重要性は少しずつ理解されてきてはいますが、それでもまだ半分近くの人はアドバイスは無料で受けたいと考えているわけです。
では、なぜ投資一任サービスが日本より普及しているのか。実は、米国のRIAは日本の投資助言業者とは異なり、投資助言だけでなく投資一任業務が可能です。Investment Adviser Associationの調査によると、米国RIAのうち実に91.4%が投資一任業務も行なっています。アドバイスを受けるなら、実際の運用までやってほしいというニーズが高いし、フィーの支払いもその都度財布を出すよりはサービスの中から徴収してくれるほうが便利だしフェアだと考えている人が一般的なのです。
しかも、投資一任も可能な投資顧問業であるRIAへの登録ハードルはそれほど高いわけではありません。一方、日本の場合は前述のとおり投資助言業者には執行権なく、投資一任も可能な投資運用業に参入しようとすると5千万円という多額の資本金・純資産が必要で登録ハードルは非常に高くなっています。日米の差とは、アドバイスに対価を払うカルチャーの有無ではないのです。日本で投資一任事業に参入しようとする際のハードルの高さや、代替スキームを提供するプラットフォームの不足、つまり、投資一任事業を営む現実的な事業スキームの欠如という点が決定的に違うのではないかと私達は考えています。
アドバイスチャネル拡大へと、大手金融機関が動き出している
さて、冒頭で2019年の秋を境に日米で一気にブローカレッジの無料化が進展したと説明しました。しかし、2019年に日本の証券・資産運用業界で起こったことはそれだけに留まりません。ブローカレッジの無料化と同時並行的に起きたのが、大手証券会社などによる地域銀行や地場証券、保険代理店などの囲い込みです。その狙いは、アドバイスチャネルを獲得することで、顧客にアドバイスという付加価値を提供する事業を行なうことにあります。
まず、2019年8月26日に東京東海証券がIFA事業への参入を発表しました。同社はこれまで対面の営業員を自前で用意していましたが、新たに外部からIFA事業者を取り込むとしたのです。また同じ日に、野村證券も島根や鳥取を地盤とする山陰合同銀行と包括的業務提携を発表。さらにその後も、SBI証券が福島銀行や島根銀行などと業務提携するといったニュースが続きました。
これまでは、資産運用会社が金融商品を作り、それを証券会社などが販売・提供していましたが、ここに来て販売・提供のプロセスを分離する動きが出てきたということです。別の言い方をすれば、プラットフォーマーとアドバイスチャネルの役割を明確に分けようとなってきたのです。アドバイスチャネルとしては、先に挙げた地域銀行をはじめ、地場証券、保険会社・保険代理店、IFAがあります。プラットフォーマーである金融機関は、いかにアドバイスチャネルを囲い込むか、そして囲い込んだアドバイスチャネルをうまく活用して自分たちのソリューションを提供するということで、頭がいっぱいではないでしょうか。
これからの2年間で、これまで一体化していたプラットフォーマーとアドバイスチャネルの役割分担が大きく進み、それと同時にブローカレッジやアセットマネジメントからアドバイス重視の流れも加速していくと考えています。では、プラットフォーマーが囲い込みを強化するのは具体的にはどのアドバイスチャネルでしょうか。私は、まず地域銀行と保険・保険代理店だと考えています。地銀については今後合併があればさらに数が減っていくため、なるべく早く押さえる必要があります。また、保険・保険代理店についても、ソニー生命 や ほけんの窓口 など、注目すべきところは数が限られていて、やはり早いもの勝ちです。つまり、これからの2年間は、非証券チャネルが奪い合いの対象になるということです。
非証券チャネルでのアドバイスサービスはゴール設定型に
プラットフォーマーの囲い込みによって、これからアドバイスチャネルとして大きく伸びていく非証券チャネルは、言い換えれば、株や投信を売り慣れていない人達です。そういう方々が、ファイナンシャルアドバイスをどう提供していくのか。私は、これまでとは世界観ごと変わる必要があると考えています。従来型の投資サービスでは、顧客が誰であっても投資対象や商品の魅力、期待される利回りなどを伝えて買ってもらえばよかった。一方、アドバイスが主体となる今後のサービスでは、顧客一人ひとりの状況や計画に応じて、サポートをカスタマイズして提供することが重要です。
たとえば、「5年後、10年後のあなたのゴールを達成するには、こういう積立計画がいいですよ。こんな運用をしませんか」といったGBA(ゴールベース・アプローチ)型の提案をします。また、実際の運用をスタートした後も、目先の運用や損益にとらわれるのではなく、計画の達成率を見ながら細かくアフターフォローしていきます。「目標達成率が下がっているから、毎月の積立金額を少し増やしましょう」「目標達成率が95%を超えているので、金額を減らしても十分達成可能ですよ」など、「モノ」を売るのではなくアドバイスを中心とした「コト」を重視したサポートなので、非証券チャネルのアドバイザーでも十分対応することが可能です。
これが、今後求められるファイナンシャルアドバイスの世界観であり、こうしたGBA型アプローチのビジネスを提供しようとする中で、投資一任スキームが広まっていくであろうと私達は考えています。ただ、プラットフォーマーが効率的にアドバイザーを囲い込んで、アドバイスという付加価値のあるビジネスを行なうためには、まず証券会社や金融機関が投資一任事業スキームを備えていることが必要です。しかし現状では、多くのプラットフォーマーにそうした事業化スキームがないことがボトルネックとなっています。
投資一任の事業化に必要な全てをワンストップで提供可能
現在、投資一任サービスを外部のアドバイスチャネルに提供しているプラットフォーマーは、野村證券、りそな銀行、楽天証券など、一部に限られています。もし、他社がこれから同じようなプラットフォーム競争をやっていく場合には、ゼロから組み立てて準備をすることになります。しかし、すべて自前でやろうとすると大きな資金がかかり、またさまざまなノウハウも必要になることから簡単ではありません。
そこで、最後に説明するのが、私達「日本資産運用基盤グループ」が提供するサービスについてです。私達は、ファイナンシャルアドバイスという新たな事業領域において、プラットフォーマーとなることを目指す金融事業者に対し、投資運用業登録やコンプライアンス業務支援、投資一任事務アウトソース、関連システム提供、フロントソリューションまで、投資一任事業スキーム運営のすべてをワンストップで提供可能です。特に、私達の強みは、「ラップ契約内蔵型投信活用投資一任スキーム」という既存の投資一任スキームとは異なる独自のスキームを活用し、効率よく、柔軟に、外部のアドバイスチャネル向けに展開できることです。
日本資産運用基盤グループのソリューションパッケージを活用することにより、新しくファイナンシャルアドバイス事業領域への参入を考えているプラットフォーマーは、投資一任事業運営に関わる必要な準備の殆ど全てを外部にアウトソースすることが可能となり、自前対応に比べ、アドバイスチャネルの囲い込みや育成、個人投資家への付加価値提供など、差別化の源泉になる部分にリソースを集中させることが可能となります。
そもそも日本の伝統的な金融機関は、今までどこも「自前主義」でした。システムもリーガル・コンプラインスなどの業務も、あるいはオフィスについても自社ビルをまず検討してきました。何かをアウトソースするという発想がありませんでした。しかし、他の業界では今やアウトソースやOEMは当たり前です。証券・資産運用分野のパラダイムシフトが進むいま、金融業界もようやくそこに気づき始めたのではないでしょうか。
(取材・記事:肥後 紀子、資料提供:日本資産運用基盤グループ、撮影、編集・制作 : GoodWayメディアプロモーション事業部@株式会社グッドウェイ )