「貯蓄から投資へ」の流れを若い世代にも根付かせるための制度
今年からスタートした、ジュニアNISA制度(未成年者少額投資非課税制度)。小さいお子さんのいるご家庭では、関心が高いのではないでしょうか。今回は、ジュニアNISA制度の特徴やメリット・デメリット、そして上手に活用するためのポイントをお話ししましょう。
まず制度の概要は、子供一人あたり年間80万円までの投資について、そこから得られた利益(譲渡益・分配金・配当)が非課税になるというものです。利用対象は0~19歳の未成年。口座の名義は子供ですが、実際の運用は子供の親などの代理人が行ないます。
ではなぜ、ジュニアNISA制度が作られたのでしょうか。すでに2年前から始まっているNISA制度(少額投資非課税制度)のほうは、20歳以上が対象でした。国は、一定の投資に対する利益を非課税にすることで、「貯蓄から投資へ」という流れを進めていきたいと考えています。ジュニアNISA制度では、対象を未成年者に広げることでそのすそ野を若い世代にも広げたいという思いがあるんですね。
一方、個々の家庭のライフプランを考えると、多額の教育費が家計を圧迫する、高等教育のための資金を貯めるのが難しいといった状況があります。そこで、利益を非課税にするだけでなく、詳しくは後で説明しますが、18歳まではお金を引き出せないという制約を設けて、将来の教育資金を準備しやすくしようというのもジュニアNISA制度の狙いのひとつです。
とはいえ、信託銀行の教育資金一括贈与などとは異なり、ジュニアNISAで作った資産は、必ずしも教育費に使う必要はありません。就職のためでも、将来の結婚資金に使っても大丈夫です。いずれにしろ、子供が大きくなったときに自分名義のお金がいくらかでもあることは、人生の選択の幅を広げてくれる可能性があります。せっかくこうした制度ができたのですから、活用しない手はないでしょう。
メリットでありデメリットでもある、18歳までの払い出し制限
改めて、ジュニアNISA制度の特徴、メリット・デメリットを説明していきましょう。なお、20歳以上を対象としたNISA制度と共通したメリット・デメリットもあれば、ジュニアNISAならではの注意点もあります。下記の表も参考に、両者の相違点を理解してもらえればと思います。
いちばんのメリットは、最初に説明したとおり、年間80万円までの投資から得られた利益については税金が一切かからないことです。通常、株や投資信託の利益には20.315%(復興特別所得税含む)の税金がかかりますが、ジュニアNISA口座で投資した場合は税金は引かれません。投資経験のない人にはなかなかピンと来ないかもしれませんが、消費税であれば2%の違いでもかなり気になりますよね。
たとえば、100万円の利益が出た場合は、税引き後は79万6850円になってしまいます。しかし、ジュニアNISA(及びNISA)制度を使えば、100万円をそのまま受け取れるのです。どんなに利益が出ても税金がかからないので、制度をうまく使えば非常に大きな節税メリットを受けられることになります。
次に、メリットでありデメリットでもあると言えるのが、ジュニアNISA制度では子供が18歳になるまではお金の払い出しができない点です。「払い出しができない」とは、ジュニアNISA口座で株や投資信託などを購入して、しばらく運用して売却したとしても、原則として18歳になるまでは利益も元本も口座から引き出すことができないということです。
これがなぜメリットなのかと言えば、途中で引き出して使ってしまうことがないためです。子供のためのお金が、親の事情で車の購入代金になったり、生活費にしてしまったりということがないんですね。
ただ、お金に困ったときにも簡単には引き出せないという意味では、やはりデメリットでしょう。ジュニアNISA制度は、子供の名義で資金を準備したい、将来の資産運用のタネ銭を作っていきたいと思う人にとってはよい制度ですが、こうした使い勝手の悪さもあることは知っておいて欲しいと思います。
もう一つ、ジュニアNISA制度で気を付けたいのが、金融機関の変更ができないことです。そのため、ジュニアNISA口座を開く金融機関を選ぶ際には、通常のNISA以上に慎重に考えたほうがいいですね。ポイントは、品揃えの多いところを選ぶこと。そのときよいと思った一つの商品だけで、「これに投資しよう」と金融機関を決めてしまうのは危険です。後々景気や経済の状況が変わったときに、対応が難しくなるからです。
その点、大手のネット証券であれば、投資信託の品揃えも充実していますし、株式の取引手数料などコストも全般的に抑えめです。ジュニアNISA口座を開設する金融機関としては使い勝手がよいのではないでしょうか。
投資初心者なら、まずは「バランス型投資信託の積立投資」で
さて、ジュニアNISA口座では、どんな商品にどのように投資していけばよいでしょうか。投資初心者という方には、まずは「バランス型投資信託で積立投資」の検討をお勧めしたいと思います。その理由は、1本で複数の資産クラスに分散投資できることと、そのときどきの値動きに振り回されずに済むためです。
証券会社にジュニアNISA口座を開いた場合は、もちろん株式やREIT等にも投資できます。ただ、株式等は銘柄ごとに必要な投資金額が大きく異なり、年間の非課税投資枠80万円をぴったり使おうと思うとなかなか難しいものです。中には、一銘柄で80万円の枠を使い切ってしまうものもあり、そうなると銘柄を分散してリスクを抑えるといった方法は使えません。
投資信託であれば1万円程度、積立の場合は証券会社にもよりますがさらに少ない金額から購入できます。また、1本の投信の中に複数の銘柄が組み入れられていますから、それだけで分散が効いているのも投信のよい点です。投信では、国内外の株式、債券、REITなど、さまざまな資産に投資している商品があるので、幅広い選択肢の中から自分のリスク許容度に合ったものを選ぶことができます。
また、分散が効いている分、投資信託のほうが個別株より値動きが緩やか(儲かりにくいとも言えますが)です。リスクを抑えながら、資金を着実に増やしていこうという考え方は、子供の教育資金を長期で作っていくという目的にも向いていると言えるでしょう。
ちなみに、NISAでは、一度使ってしまった非課税枠は、その年の間はたとえ売却したとしても、再利用はできません。80万円の個別株を買って一度に非課税枠を使い切ってしまうと、その年はもう何も買えなくなってしまうのです。その点からも、ジュニアNISAでは一度にまとめて投資するより、少額ずつ積み立てていくような投資の方が無難だと思います。
子供が18歳になるまで成長し続ける国に投資する、という考え方も
ただし、すべての人が「バランス型投資信託の積立投資」を選ぶ必要はありません。どのくらいの投資経験があって、どの程度のリスクを引き受けられるのか、子供の年齢がいくつであと何年運用するのか、またジュニアNISA制度をどんな目的で利用するのか。それぞれの状況や考え方に合わせて、投資する商品を選んでいけばよいのです。
たとえば、バランス型ファンド1本を買うのではなく、国内、先進国、新興国の株式、債券、REITなどに投資する投信を、別々に購入してポートフォリオを組んでも構いません。また、ポートフォリオの中に、原油や貴金属といったコモディティ系を少し取り入れるのも悪くないと思います。伝統的資産への投資と対象や手法が異なるものを少し入れておくほうが、「分散」という意味ではよいでしょう。国内外の株や債券に分散投資していても、相場が悪くなると一緒に下がってしまうことがよくあるからです。
さらに、「子供が成長したときに、伸びている国はどこだろう?」と考えて投資するのも一つの手です。仮に、子供が今8歳でこれから10年間運用することを考えたときに、長期で発展していくとしたらアジアではないか――そう考えて、アジアの国々の株式に投資する投信を資金の一部で買う、といった方法も面白いのではないでしょうか。
ところで、ジュニアNISAの年間80万円の非課税投資枠は、使い切らなくてもまったく構いません。そもそも“少額”投資非課税制度ですし、毎月5000円、3000円の積立投資だっていいんです。引き出すことはできませんが、投資を続けるのが大変なときには、途中でお休みすることも可能です。ネット証券なら、窓口で顔を合わせることもないし、少ない金額でも気遅れすることなく利用できるので便利ですね。
ジュニアNISA制度をきっかけに、親子で学ぶこともお勧めです
せっかくジュニアNISA制度を利用するのであれば、単にお金を増やしていくだけでなく、親子で一緒にお金のことを考える機会にすることもお勧めしたいですね。子供が高校生ぐらいになったら、たとえばお正月と夏休みなど半年に1回程度、投資している商品について話し合うというのはどうでしょうか。
これまではこんな商品に投資していて、どういう理由でそれを選んだのかを説明したり、これからどんなものを買ったらよいのかを相談したり。少し話はそれますが、私の知人に子供へのお小遣いを米ドルであげている人がいます。米ドルで渡すと、子供は為替の動向や仕組みを知ろうとするようになり、少しでもお小遣いを増やそうと米ドル高円安のときに換金しようとするそうです。
同じように、ジュニアNISA口座で運用している商品について親子で話し合えば、将来は自分のお金になるわけですし、世の中のさまざまなニュースに対して関心を持つようになり、大人になるまでにビジネスのセンスも自然に身に着いていくのではないでしょうか。
「親子でお金のことを考える」という目的であれば、バランス型ファンドよりは日経平均などに連動する単体のインデックス型ファンド、あるいは個別株のほうが値動きの仕組みがわかりやすいかもしれませんね。年間80万円の非課税枠のうち、メインは投資信託で運用して、一部の資金のみ個別銘柄に回すということも一法です。
たとえば、子供の周りで何が流行っているのかを聞いて、子供の関心の範囲であまり高くない銘柄を買っていく。投資したいと思った会社が上場していなかったとか、ジュニアNISAの非課税投資枠の範囲では買えなかったとか。実際にいいと思っても買えない株があるといったことなども実感として学んでいけます。もちろん、各家庭でジュニアNISA制度に何を期待するかは異なり、教育方針も異なるでしょうから、「我が家ではジュニアNISA制度とどう付き合うのか」をそれぞれ考えていたければよいと思います。
投資初心者の親世代にとっても、ジュニアNISA制度はゼロから投資を学ぶよいきっかけになります。ネット証券などでは、親子で読むことを想定して、制度や利用法、資産運用についてわかりやすく説明しているサイトやページを設けるところが増えているからです。初心者の方は、そうしたサイトの情報も積極的に利用してみてください。
今まで「投資はハードルが高い、自分には関係がない」と思っていた人も、ジュニアNISA制度(やNISA制度)とネット証券を組み合わせて利用することで、投資が身近になるのではないでしょうか。制度のメリット・デメリットをしっかり踏まえつつ、お子さんと一緒にそれぞれのご家庭に合った活用法を考えていただけたらいいですね。
(取材・記事:肥後 紀子 / 撮影:/柴田 潔 / 編集・制作:グッドウェイメディアプロモーション事業部)
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