金融データ活用推進協会は、前身の「金融事業×人工知能コミュニティ」を通じて金融業界のデータ活用の意見交換を行ってきた中、金融機関同士の「壁」を超えたノウハウの共有や外部交流、データ活用を推進する横断的組織の必要性が高まったことを受け、同じ志を持つ金融機関とスタートアップ総勢31社が集まり2022年6月22日(水)に発足した団体(発表会レポート)。
インタビュー会場 | Japan Digital Design(JDD) |
今回のインタビュー会場となった Japan Digital Design は日本橋に位置し、「金融の新しいあたりまえを創造し、人々の成長に貢献する」をミッションに掲げ、金融ビジネス、テクノロジー、体験デザインの機能を融合したチームを組成。スタッフが働くフロアーは STUDIO、FACTORY、COLLEGEと目的や機能に合わせて3エリアに分割され、各エリアで使用できる可動式のデスクやモニター、配信スタジオなどが配置されている。
インタビュー
| 協会設立&金融機関のデータ活用の狙い |
<インタビュアー> 藤野 宙志(グッドウェイ 代表取締役社長)
【岡田氏】2019年の秋に開催された会合でデータを活用している金融機関の関係者が集まった際に、金融機関同士で情報・意見交換できる機会があれば悩んでいたことが一気に解決するなと思い、2020年1月に「金融事業×人工知能コミュニティ」を立ち上げました。その際に20社50名以上が集まり、思った以上に反響がよかったという感触を得ました。その後も、金融機関の中にある壁を取り払った情報交換に意義があるとして活動を継続し、ユースケースを盛り込んだ金融業界のスタンダードとなる実務で使える教科書的な書籍出版の話が契機となり、協会の設立に向けて2022年4月から動き出しました。河合さんや安原さんをはじめ多くの賛同者の存在もとても大きかったと考えています。
【河合氏】最初にお話をうかがった際にコンセプトに対して「やらない理由はない」と感じました。自分が日銀時代からずっとデータを触ってきて、基礎研究分野はナレッジをシェアすればするほどお互い良くなっていくことは分っていましたので、ベースとなる部分はお互いに情報交換しながら勉強していく事が大事だと思い、また、岡田さんをはじめとする皆さんの想いや雰囲気あるステキな関係に触れ、むしろこのタイミングで声をかけていただいたのはとても光栄です。
【安原氏】以前、銀行にいた当時から、金融業界を含めた様々な産業界で国内の競争に明け暮れて海外に負けてしまう傾向があったので、基礎研究データやノウハウの共有と連係がとても大事だと感じていました。全国の各金融機関がそれぞれ持つ首都圏データや地域データが合わされば全国データとなるように、こういった横のつながりの取組みがないと日本はこれから立ち行かないだろうなと思っていたので、すぐに賛同しました。
【岡田氏】お声かけした金融機関のほとんどにご参加いただき、正直なところ自分でも驚いていますが、金融機関にとってデータ活用が課題であるという共通の危機感があった結果だと思っています。当初の構想は「企画出版委員会」と「データコンペ委員会」の2軸でした。ただ、実際に各社と話をする中で、一番重要なのはデータを活用する金融機関の組織のあり方にニーズがあることが分かり「標準化委員会」を追加しました。スモールスタートが大事だと思っているので、会員企業には最低ラインとしてのハードルは上げず、まずは金融機関同士の交流を深めてもらい、その上で各委員会の活動への参画など二段階で協力していただければと考えています。
【河合氏】協会設立から1ヵ月半が経過し、岡田さんはハードルを上げないと言っていますが盛り沢山です(笑)。岡田さんはすごい意欲的なので、やりたい人はぜひ参加してくださいとお伝えしています。ネットワークイベントの開催や、柱となっているプロジェクトもあり、オンラインでの活動もアクティブなので、設立から1ヵ月半とは思えないほどの横のつながりが生まれていて、金融機関がそのつながりを求めていたんだなという意味では期待以上です。
| 各委員会(企画出版委員会、データコンペ委員会、標準化委員会)の概要と活動 |
【河合氏】データコンペ委員会では、実金融データに近い疑似データのようなシンセティックなデータを提供し、実際にそのデータを触ってもらいソリューションを提供してもらう実践型のコンペを考えています。そのために実際にデータを分析するためのツールやインフラとなる基盤も提供していきます。できるだけハードルを下げて、一般公募で幅広い多くの方々からのエントリーを目指しています。金融の世界におけるデータ分析をデモクラタイズするために書籍の出版と実践で手を動かすデータコンペでの経験を通じて学びにつなげたいと思います。
【岡田氏】大きな目的としては金融データの魅力の発信です。金融業界はデータをたくさん持っていると言われている中で十分に活かしきれているとは言えず、他業種の人がこんなに面白いデータがあると飛び込んでくるきっかけをつくり、一緒に掛け算することで新しいことが生まれればと期待しています。また、データサイエンスをしている学生にも金融データを触ってもらうことで面白いと感じてもらい、金融業界での優秀なデジタル人材を増やすことで金融業界全体が盛り上がっていく事につながればと願っています。金融機関の中にもデータサイエンスの素質のある人は一定数いて、その発掘が経営課題としてあるわけですが、どこからでも誰でも参加できる公正なコンペ開催に向けて準備を進めていますので、我こそは一旗揚げたいという方やスキルを示したい全国の金融機関の皆さんにぜひ参加いただきたいと思います。
【安原氏】実は金融業界ではこういう取組みに触れるケースが少なく、DXをはじめ、その理解が広がらない中で仕事をしている人たちもたくさんいます。そのような中で、協会を通じて横のつながりで同じ環境の人と一緒にタッグを組んで取組んでいこうという空気感はすごくいいと思います。チャレンジしていくことでモメンタムが起きます。外から見ると銀行のデータは数字ばかりに見えるかもしれませんが、実際にはお客さまとの営業活動の中から生まれる定性的なデータもたくさんあり、それらを掛け合わせていく面白さなどもぜひ知ってもらいたいですね。
【岡田氏】企画出版委員会でユースケースをつくり、データコンペ委員会で人材を発掘するというモデルから自走化させるためには、更にデータを活用できる組織へと変わっていかなければなりません。標準化委員会では金融機関がデータ活用をできるための組織づくりに向けたセルフチェックシートを作ろうとしています。金融業界にデータサイエンティストが定着しないという問題もあり、高度な人材になるほど個人単位で活躍し動いていきますので、その個人が活躍できる組織のあり方を経営を含めて理解を促していきたいと思います。協会が掲げるビジョンでもあり、尖った個人が協会に参加し、交流し、さらに尖っていく。そして、それを応援する組織を標準化委員会で示していきたいと考えています。
【河合氏】この協会は銀行限定ではなく、保険、リース、カードなど幅広い金融機関が参加していることも特徴のひとつです。新しいチャレンジに向けて先例が求められることが多い中、協会の書籍、データコンペ、標準化が役に立つことで、これまで先例を調べるために使っていた何百時間もの時間をデータ分析に使ってもらえるようにしたいですね。
書籍の中では具体的にどういうことをターゲットに解決したいか、解決するためのデータ項目は何か、このように使えるなど公開できる範囲のものは全て本の中にまとめたいと考えています。実際に何を大切にし、それをどのデータで解決するかといった具体的なところまで落とし込み、ベースラインの部分は出来てしまうようになることが重要です。進んでいる企業はベースラインで戦っているわけではなく、その遥か上でどのようなデータを加えて入れ込めばよいかということに取組んでいます。まだ、ベースラインを超えられない金融機関が多い中、書籍を通じて国内の金融機関がスタートラインに立てるような基準を提供したいと考えています。
【岡田氏】本当の金融データを実務に活かせるような書籍はまだなく、これを読めばベースラインをつくることができるように、各章は各テーマ(不正検知・アンチマネーローンダリング、審査など)のトップランナーの方に執筆いただき、業界のスタンダードを作っていくことで業界全体の底上げにつなげたいと思っています。
【岡田氏】金融機関は一般会員、賛助会員にはデジタル庁や一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会に入会いただき、ユースケースの共有や業界全体を盛り上げていくという観点で意見交換をしています。また、金融機関以外の企業は特別会員として技術面や専門知識を持っている方に各委員会に参画いただき支援していただくことを期待しています。中にはスタートアップの会員企業もおり、実際のコンペの運営、事例共有など出版への協力をいただいています。さらに課題と打ち手のマッチングを協会でしていき、各金融機関のリサーチ時間の短縮や実証など、うまくいっている事例があればベースラインを一緒にやれるのでお互いWin-Winになれると思います。
【河合氏】金融機関でデータファーストという人が3割を超えることは不可能なことではないと思います。日銀では、業務や分析で常にデータを意識していて、法学部出身の私もデータ分析をしてきました。中央銀行でできていることは、民間企業でもできるはずで、これは私の成功体験にもなっています。データは相手を知ることの材料であり、お客さまのことを知らなければ、お客さまへのべストソリューションを提案できないので、データを把握することが大切です。会話と同じレベルでお客さまのデータや環境を分析することが重要になっており、更にはお客さまの先にいる顧客に向けてソリューションのセレクションを示せるようになっていくことが理想です。
【安原氏】金融機関は営業や企画部門を含めて幅広い部門でもっとデータを活用する必要があり、興味を持って学び、たとえ自分では分析ができなくても、その学びから得たセンスを持ってお客さまと接したいと思う気持ちが大事ですね。データを経営に活かし、お客さまに活かす。金融業界の一人ひとりがリテラシーを持ってデータ活用について話せるようになれば、金融機関の価値が上がっていくと思います。
【岡田氏】最近、面白いのは金融機関の営業の方からも勉強したいという人も増えています。営業のほかにも、企画の方々にも入っていただけるとさらに盛り上がりますね。地域の金融機関ではデータ分析の担当者は少数で1人で黙々と取組むのはつらい面もあります。データ活用はボトムアップで成果が出るまでに時間がかかることもあり、協会を通じて他の金融機関の方と悩みの相談や意見交換をしていただけたらと思います。また、大学/教育機関にも貢献していきたいと思っていて、出版した書籍の印税も献本にまわし金融データの魅力を発信していくほか、デジタル庁をはじめ、データの素材を持っているオルタナティブデータ推進協議会や規制を作っている各団体とも連携を進めていきたいと思います。
【河合氏】本当に期待しています。自分も本当に頑張りたいし協会の活動を通じて一人でも多くの人が金融データって面白い、金融って楽しい、と思ってもらえる素地を、ぜひ皆さんと一緒に作っていけるといいなと思います。
【安原氏】金融はデータが活かせる業種なので、協会が悩みの受け皿となり、横のつながりを通じてこの分野に縁遠い人と一緒にデータ活用に取組むことで業界全体が変わっていくインパクトが出てくるとことに期待しています。
【岡田氏】金融業界の中でワクワクする取組みを増やしたいという純粋な思いがあり、とにかく個人が活躍して楽しいな、金融データって面白いなと思っていただければ、どんどん人は集まり、結果として業界全体が盛り上がると思っています。ぜひこれからの協会の活動にご期待いただけたらと思います!
(取材、撮影、記事、編集・制作 : GoodWayメディアプロモーション事業部 @株式会社グッドウェイ )