(2011/01/04)
年頭ご挨拶
http://www.tse.or.jp/news/30/110104_a.html
新年明けましておめでとうございます。年頭に当たり、皆様のご健康を祝し、一層のご活躍をお祈り申し上げます。
さて、昨年は我が国のGDPがついに中国に追い越されたという報道をはじめ、国中が聊か悲観色一色に塗り固められた感じがあります。しかし、今世界で起きている現象は国力が西から東へ移動するパワーシフトと言うよりも、先進国はその富を維持しつつ、更に今まで貧困に放置されていた国々が豊かさを手にする手段と目的を発見し、世界全体の富が増殖するというすばらしい地殻変動が起き始めていると見るべきではないでしょうか。
その中で、国土や人口面で米国や中国に比べ格段に小さく、特段の資源もない我が国が、世界有数の経済大国であることは驚嘆すべきことであり、そのベースにある民主主義・資本主義の確固としたルールや社会システム、勤勉で優秀な国民、高度な技術力は、今なお、世界に誇るべき財産であると改めて強調したいと思います。
一方、この20年間で繰り返された需要刺激的な景気対策が、持続的な経済成長に結びついていないことも確かです。我が国の実質GDPが、20年間を通じてわずか10%台半ばの成長に留まっている間に、米国の成長は60%を超え、中国にいたっては6倍以上の経済規模となっているわけですから、我が国にとっては悔やまれる20年でした。
持続的な経済成長を取り戻すには、直接的な需要刺激策ではなく、既得権や過去の成功にこだわった生産性の低い産業や企業から資本・労働などの生産要素を移転させ、新しい成長の源である新規事業モデルを連続的に生み出すしか最早手段はありません。自由貿易協定の問題にしても既存の輸出産業の競争力を高めるだけでなく、農業の成長産業化を目指すなど、大胆な産業構造の転換、規制緩和に取り組む絶好のきっかけにもなると思われます。
新規ビジネスの立ち上げにはリスクが付きものですが、不確実性への挑戦なしに社会や国が富を獲得することはあり得ません。不確実な新規事業を起こすような人は本質的な楽観主義者であり、彼らのお蔭で文明が進化してきたことは歴史が証明しております。批判者や悲観主義者を崇めるのではなく、リスクへの挑戦者を応援するような価値観を社会的に醸成していくことも必要ではないでしょうか。
この20年間の財政支出による政府部門の赤字は、企業部門に過剰貯蓄されており、家計部門は引き続き貯蓄超過となっております。近年ではアジア諸国も貯蓄超過で、こうした資金に投資機会を提供し、チャレンジ精神にあふれる企業家が効率的に資金循環に参加できるような公平で透明な資本市場の整備が政府や取引所には求められます。
我々東証は、こうした観点から、世界最高水準の取引システムの導入、TOKYO AIMの創設、新興市場マザーズの機能強化、上場企業のコーポレートガバナンスの充実、リモートメンバー制度の導入、農産物や工業商品を含む多種多様なETFの上場などの課題に取り組んで参りましたが、東京市場でのリスクマネーの好循環を十分作るまでには至っておりません。
本年は東証市場が魅力ある投資機会と資金調達機能を十全に提供できるよう全力を尽くすと同時に、リスクにチャレンジしやすい環境作りに向けた関係各所への働きかけを積極的に行って参る所存でございます。
今後ともどうかご支援ご指導賜りますようお願いいたしまして、平成二十三年新年のご挨拶とさせていただきます。
平成二十三年一月四日
株式会社東京証券取引所グループ
代表執行役社長 斉藤 惇