老後資金を考えるには、まず年金と生活費の把握から
安心して老後を過ごすために資産運用を考えている、あるいは今後考えていかなければと思っている、という方は多いでしょう。今回は、老後資金についての基本と、投資信託の運用で大切な老後資金を守りながら増やしていく方法をお話したいと思います。
何から手を付ければよいのか、と悩む方もいらっしゃるかもしれません。まず必要なのは、「収入」と「支出」の把握です。老後の収入は、公的年金がベースになると思います。年金の受取予定額は、誕生日に届く「ねんきん定期便」で確認ができますし、日本年金機構の「ねんきんネット」でも調べられます。あとは、企業年金や個人年金の上乗せがどのくらいあるのかを確認しておきましょう。
次に、支出について検討します。夫婦二人の老後の生活費は、約1億円と言われています。ただし、家庭によって金額は変わってきますので、ご自身の家庭に即して考えることが大切です。
ここで、老後資金について多くの人が誤解しがちな2つの点について説明しておきましょう。ひとつは、「退職すると支出が減る」という思い込み。実はどちらかというと、支出が増える方が多いのです。これまでより自由になる時間が増えて、家族や同時期にリタイアした会社の同期と旅行したり、また妻や孫など家族にプレゼントをしたりする機会も多くなるからです。
2つめは、「老後の期間」についてです。平成26年度のデータでは、65歳の平均余命は男性で約20年、女性では約24年です。ただ、あくまでこれは平均のデータですから、男性であれば90歳以上まで生きると考えて老後資金を準備する必要があります。ちなみに、平均寿命は男性80.5歳、女性86.83歳(出典:平成26年簡易生命表)ですから、平均寿命をベースにしてしまうとまったく実情にそぐわなくなってしまいます。
老後の収入と支出、さらに預貯金などの額を把握したら、キャッシュフロー表を作成します。インターネットのサイトなどにひな形がありますし、またキャッシュフローを作成できるソフトなどもありますから、そうしたものを利用すれば個人の方でも作れると思います。
キャッシュフロー表の作成と合わせておすすめしたいのが、今後どういう人生を歩んでいきたいのか、じっくり腰を据えて考える機会を作ってみることです。当社では「ファイナンシャルロードマップ」というツールを使い、夫婦それぞれで今後実現したいことや達成したいことを20個挙げてもらっています。その中から優先順位の高い10個に絞り込むことで、自分が大切にしたい事が何なのか、自分の価値観に気づくことができるのです。絞った10個には達成したい日付や必要な金額も書き込んでおく。これをやっておくと、老後に何をやりたいのかという前向きな目標ができると同時に、いついくら必要かという資金計画も見えてきます。
「目標利回り」と「リスク許容度」を考えて資産を運用する
キャッシュフロー表を作成すると、定年退職時点の資金がいつまで持つのか、足りない資金はいくらなのかが判明します。金額を把握したら、今ある資産を運用することで足りない分を補っていくことを考えましょう。
運用についての考え方は2つあります。まず、「利回り」から考える方法。これは、必要な資金からどの程度のリターンを目標にしたらよいかを計算して、そこから目標利回りを出すという考え方です。利回りを出すには、金融機関などのサイトにあるシミュレーション機能を利用するとよいでしょう。
もうひとつは、「リスク許容度」から考えるやり方です。セミナーなどで、仮に1000万円を投資していくらまでの損に耐えられますかと聞くと、大体200万~300万円と答える人が多いんですね。これは、1年間の下落率が最大20~30%までしか耐えられないことを示しています。
話は少しそれますが、日本の売れ筋の投資信託には年間の最大損失率の目安が50%前後というものが多くあります。ということは、リスク許容度と実際に購入している商品のリスクが見合っていない人がかなりいる可能性があります。投信を買うときには、受け取れる分配金だけに目を奪われず、最大損失率にも十分留意する必要があります。
運用方針は、「目標利回り」と「リスク許容度」の両方から考える必要がありますが、ご自身のリスク許容度を正しく判断するのは簡単ではありません。前述の質問はあくまで一つの例で、たとえば当社のお客様とはじっくりと対話する中で、その人ごとのリスク許容度を判断していきます。
今回は、目標利回りから簡易的にリスクを判断する方法をお伝えしたいと思います。下落率を目標利回りの3倍くらいと仮定して、利回り3%を狙うのであれば10%~余裕を見て15%くらいまでは下がると考えるという方法です。下げ幅に耐えられるかどうかを考えながら、目標利回りを設定していきましょう。
目標利回りは、最大でも7%程度にしておきましょう。株式に100%投資する投信で利回り7%程度ですから、それ以上になると投資ではなくほとんどギャンブルになってしまいます。もし、計算の結果、必要な利回りがあまりに高く出てしまった場合は、資産運用だけに頼るのではなく、定年退職後も働いて収入を得るなど、他の方法も組み合わせていくことを考えてください。働き続けることは、収入にはもちろんですが健康にとってもプラスですので、よいことだと思います。
投資の基本に忠実に、投資信託でじっくり運用するのがおすすめ
では、どんな商品にどのような投資をしていけばよいでしょうか。老後資金に限らず、投資の基本は「成長」しているところに「分散投資」することです。「分散」というキーワードがありますから、1本で幅広い銘柄に分散投資できる投資信託は、老後資金の運用に向いています。
頭の体操的に個別株に投資するのは構いませんが、個別株に集中投資するというのはなかなかうまくいかないのではないでしょうか。老後資金の運用は、投信でじっくり行なうほうがよいと考えます。
資産配分については、よく言われることですが、「100-年齢」を株式に、残りつまり「年齢」に当たる部分を債券に振り分けるのが目安になります。たとえば、56歳なら、44%が株式で56%が債券というような考え方です。年齢が上がっていくにつれて、少しずつ債券の割合を増やしていけばよいでしょう。
とは言え、毎年配分を変えていくのは大変ですし、手数料も発生します。自分で配分を変更するのが面倒であれば、時間が経つにつれて資産配分を変更してくれる「ターゲットイヤーファンド」を利用するのも一つの手と言えるでしょう。ご自身で資産の割合を変えていく場合は、5年に一度くらいのペースでよいと思います。なお、リバランスについては半年に一度くらい行なってください。
※ターゲットイヤーファンドとは、あらかじめ目標とする年を設定して、そのターゲットイヤーに向けて、徐々にポートフォリオを積極運用から安定運用に変更していくファンド。退職時に向けた資産運用などに活用される。
「お小遣い」目当てで、老後資金を毎月分配型に投資しない
「コア・サテライト」という考え方も押さえておきましょう。ポートフォリオの中核である「コア」と、それ以外の「サテライト」に分けて、資金配分を考えるということです。コアの部分は、長期で安定的に伸びていく資産が向いていますし、大きなリターンも期待できる代わりにリスクも高いという資産はサテライトで運用しましょう。
たとえば、コアの部分で先進国の株式と債券に投資して、サテライトでは新興国の株式と債券、その他の資産に、というイメージです。金額で言うと、仮に3000万円を運用するとしたら、2500万円はコアで、500万円をサテライトという感じでしょうか。
また、インデックスファンドかアクティブファンドかについてはは、投信への投資が初めてであればまずはインデックス型から入るのが、わかりやすく手数料も低いのでおすすめです。投資に慣れてきたら、アクティブ型を検討していけばよいと考えます。
今も年配の方に人気が高い毎月分配型のファンドに関しては、注意が必要だということをお伝えしたいと思います。毎月分配型では、利益からではなく元本から分配金が出ている投信が少なくありません。「毎月お小遣いがもらえる」という感覚で、金融機関に勧められるままに退職金一括でそうしたファンドを買ってしまうというのは非常に危険です。毎月分配型だけでなく、投信は「勧められたから買う」ではなくネット証券で自分で調べて買っていくという姿勢が大切です。
早めに投資を始めることで、「時間分散」も味方につけられる
先ほど投資の基本は「分散」と言いましたが、「分散」は資産だけでなく時間においても有効です。退職金が入ったら一括で投信を買うというのはできるだけ避けて、毎月数万円ずつでもよいので、時間を分散させて投資をしていくとよいでしょう。
いちばんよくないのは、退職金を一千万円単位で投資に回して、そのまま持ち続けて大きく下がったときにイヤになって売ってしまうということです。老後を意識したときから、積立で投信を買っていくのがよいでしょう。特に、投資未経験の方には強くおすすめしたいですね。
繰り返しになりますが、大切なのはしっかり成長しているところに投資することと、分散することでリスクを抑えることです。老後資金のために運用を始めた場合、50代であれば運用期間は10~15年以上もあります。当社のお客様では、80歳近くまで元気に運用されている方もいらっしゃいます。老後資金そして老後について早めに考え始めて準備をすることが、豊かで安心できる老後につながります。
(取材・記事:肥後 紀子 / 撮影:/柴田 潔 / 編集・制作:グッドウェイメディアプロモーション事業部)
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