ここ数年で、投資信託への投資を始めたという人も多いのでは? 2014年から「NISA(少額投資非課税制度)」が始まり、2017年には「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が拡充、そして2018年の「つみたてNISA」と、個人投資家を後押しする制度も次々にスタートしています。今回は、投資信託に投資している個人投資家の動向にも詳しい『投資信託事情』編集長の島田知保さんに、ここ数年の投資信託に関わるさまざまな「変わったこと」「変わっていないこと」について伺いました。
■個人投資家の中から「メンター」的存在の投信ブロガーが誕生
個人投資家、金融機関、そして投資信託のそれぞれで、「変わったこと」と「変わらないこと」があります。まず、個人投資家に関しての大きな変化と言えば、投資信託や投資についての体験をブログで語る「投信ブロガー」の増加です。
たとえば、私は「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year」というイベントに関わっていますが、投信ブログを開設している人だけが投票資格を持つこのイベントの投票者数は年々増えていて、初回の2007年は20名でしたが、2018年には241名になりました。
また、「友達や同僚とはなかなか話しづらいお金や投資のことを気軽に話せる場を作ろう」というSNS上でのやり取りがきっかけになって、投信ブロガーのrennyさんやフィナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんと始めた「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ」という小規模な集まりは、すでに8年ほど続けていて、開催回数は100回を超えています。
投信ブロガーの増加、それはつまり自分の投資体験を人に伝えたいという人が増えているということだと思います。現在は、比較的早い時期から投信ブログを開設していた人達の記事を読んで、自分も投信を買ってブログを始めたという、第二世代、第三世代の投信ブロガーも登場しています。
「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year2018」では、241名の投信ブロガーの投票の結果、1位に「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」が選ばれた。※クリックするとサイトへ移動します。
人気の投信ブロガーの中から「メンター」になる人が出てきたことも、個人投資家の大きな変化の一つかもしれません。ブログを通じての情報発信に加えて、ここ何年かで水瀬ケンイチさんや吊られた男(つらお)さんといった投信ブロガーの方が投信関連の書籍を出版したり、セミナーの講師やスピーカーとして参加したりという機会が増えています。そこでは、いわゆるFPの方が話すのとは違う、自身の体験がベースになった投信や資産形成の話が語られて、多くの個人投資家に拡散されています。
ただし、各ブロガーが経験したことに再現性があるのかどうか、それは読み手がきちんと考える必要があります。いいことが書いてあるからといって「思考停止」して、そのまま真似をしてしまうのは望ましいとは言えません。もちろん、参考にするのは構いませんが、いくつかの書籍やブログを読み比べてあくまで自分で考えた上で投資をすることを心がけてほしいと思っています。
■低コストのインデックス投資信託が増えて積立の人気が高まる
投信での投資スタイルの「変化」では、コストの低いパッシブ型(インデックス型)の投資信託を使って積立投資をする人が増えていることが挙げられます。SNSなどでは、彼らは自分たちのことを「インデックス投資家」と呼んでいますね。
比較的古くから投資をしている「インデックス投資家」は、最初からインデックス投資をしていたわけではなく、他の投資法をいろいろ試してみたり、金融機関に勧められたものを買って失敗したり、リスクを取り過ぎた投資をしたりと試行錯誤した結果、インデックス投資にたどり着いていました。
一方、ここ5年くらいで投資を始めた方たちでは、初期のインデックス投資家のブログや彼らが書いた書籍を読んで、最初からインデックス投資だけをしているという人も多くなっています。中には、他の方法を完全に否定して、「このやり方だけが正しい」と主張する「インデックス原理主義者」もいます。誰にとっても「より間違いにくい」方法ではあると思いますが、本来、投資にはさまざまなスタイルがあり、ひとつだけ「正解」があるわけではありません。
よく理解して、納得した上でインデックス投資をしているのであれば問題はありません。ただ、「これがいいと書いてあったからやっている」というだけでは今後マーケットが大きく調整したときには、続けられなくなる人が出てくるのではないか、ブロガーさんのせいにするのではないか。その点は、少し危惧しているところです。
さて、インデックス型の投資信託を利用する人が増えてきた背景にあるのは、投資信託のコスト競争の激化です。運用会社では、低コストの投資信託を発売したり、既存ファンドの信託報酬を値下げしたりという動きが活発になりました。個人投資家がインデックス投信を組み合わせてポートフォリオを組むことが、非常にやりやすくなってきました。さらに、2018年にスタートした「つみたてNISA」では、コストなどの条件によって商品数が162本(1月11日現在、主にパッシブ投信)と大幅に絞り込まれて、商品を選びやすくなったことも大きいと考えています。
■「スマート・ベータ型」など新たなインデックス投信も登場
商品のラインナップで変わったことと言えば、ここ数年で定番のインデックス投資信託とはひと味違うものが登場してきたことです。具体的には、株主資本や利益、配当利回りなどに着目した新しいインデックスへの連動を目指す、「スマート・ベータ型」あるいは「ストラテジック・ベータ型」と呼ばれる投資信託です。
また、米国株の中でも中小型株だけを取り上げたものや、特定のテーマやセクターをピックアップしたような、インデックス投資信託ではあるけれど、アクティブ型の要素を取り入れた投資信託も増えています。
とは言え、これらはあくまでそれぞれの指数連動を目指すもので、従来のアクティブ型投資信託に比べるとコストは低く抑えられています。見方を変えると、アクティブ運用に近いところでも、もはやコストの問題とは無関係ではいられなくなってきたとも言えるかもしれません。
新しいトレンドが出る一方で、かつては非常に人気が高かった毎月決算型(毎月分配型)が急激に減っています。これも、ここ最近のトレンドと言ってよいでしょう。まだ若い「資産形成層」の方たちが高い分配金につられて毎月分配型を買ってしまうようなことがなくなったのはよいことだと言えます。ただし、リタイアした後のいわゆる「資産活用層」に対しても、毎月分配型を売らないといった極端な動きも出ています。なお、毎月分配型が大きく減ったのは、個人投資家や金融機関が主導したというよりは、金融庁による指導がきっかけです。
●1年間継続して資金が流入している人気ファンドの本数比較
(2017年と2018年)
年間を通じて毎月資金が純増し続けているファンドの本数を、年4回以上決算(分配)がある「資産活用型」と、年1、2回決算型の「資産形成型」で比較。毎月分配型などの「資産活用型」ファンドの本数が大きく減っていることがわかる。
■「NISA」や「iDeCo」など、積立を後押しする制度が充実した
先ほども「つみたてNISA」に少し触れましたが、投信積立での資産形成を促すような制度が一気に充実したこともここ数年の「変化」として挙げられるでしょう。2014年に一般「NISA」(少額投資非課税制度)が始まり、2016年には「ジュニアNISA」、昨年は「つみたてNISA」もスタートしました。また、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」については2017年に制度が拡充して、ほとんどの方が利用できるようになりました。
その結果、2018年は投資信託の販売が全体に厳しくて伸び悩みましたが、その中にあっても「つみたてNISA」や「iDeCo」の口座数は順調に増えています。投信積立の場合、一人ひとりの投資金額は、たとえばリタイア層の一括購入などと比べると非常に少ないので、まとまった資金量として目に見えるには、まだ少し時間がかかるはずです。ただ、市場が相当クラッシュしない限りは、積立の場合は続ける傾向が強いので、今後は徐々に残高が積み上がって、存在感を増していくのではないかと考えています。
制度のほうはかなり充実してきたので、あとは利用したいと思ったときにまず何から始めればよいのか、どの制度を優先すべきなのかなど、わかりにくい部分を改善していってほしいですね。そして、現状3つあるNISAの制度を一本化して、恒久化してもらいたいと思っています。ただ、投資信託だけでなく株式なども買える一般の「NISA」と、限られた投資信託とETFだけが投資対象の「つみたてNISA」を一本化するのはなかなか難しいとは思いますが…。
■「資産活用層」への投資信託の売り方は、実は変わっていない
ここまでは、ここ数年での「変化」を見てきましたが、まだまだ変わっていないと感じることもあります。それは、「資産活用層」言い換えると、ある程度資産が積み上がった世代や、退職後の資金を取り崩していく世代に対しての投資信託のアプローチです。金融機関は相変わらず、一度に買ってもらって、それをまとめて乗り換えさせるような投資信託の売り方を続けています。また、顧客の側も、「投資信託はそういうもの」と条件づけられている人がまだメインストリームなのではないでしょうか。
以前は、リタイア層に販売する投資信託は「毎月分配型」が主流でしたが、前述のとおり金融庁の指導があってからは金融業界は過剰に反応して、最近は毎月のキャッシュフローが欲しいリタイア層に対しても、毎月分配型の投資信託は売らなくなっています。実際に、リタイア層から「(毎月分配型を)買いたいのに売ってくれない」という声を聞いたこともあります。
では、代わりに何を売っているのかというと、バランス型投信やラップ型投信、もう少しまとまったお金がある人にはラップ口座の開設を勧めているようです。また商品のタイプでは、最初から予想分配金が提示されているものや、基準価額を一定以上上回ったら繰上償還するものなどが、相対的にリスクが低く、リタイア層にも勧めやすいということで増えてきています。
ただし、それは金融機関側がリタイア層の顧客一人ひとりのニーズに合わせて売っているわけではなく、かつて「リタイア層には毎月分配型を売ればいい」と思っていたのと同じ感覚で、今度は別のタイプの投資信託を売っているに過ぎません。「資産活用層」の中にも、少しずつ金融リテラシーの高い方も増えてきてはいますが、こちらはまだ少数派です。
●2018年にスタートした投資信託 当初設定額トップ20
また、もう一つ変わらないこととしては、投信ブロガーの増加や、投資信託の低コスト化の流れ、「iDeCo」や「つみたてNISA」などの制度の充実など、さまざまな変化があっても圧倒的大多数である投資未経験者を動かすところまではいっていない、ということが挙げられます。「投資はコワイ」「投資信託なんて買いたくない」という未経験者の方に、投資信託をもっと知ってもらって、次のステップに踏み出してもらうためにはどんな方法が考えられるのか。私も含めて、投資信託に関わっている人たちが考えていくべき最大の課題だととらえています。
■変化の中で、投資を続ける人と投資を検討中の人へのメッセージ
何年か前から始めている人は、順調に資産を伸ばしている人が多いと思います。一方、2018年にスタートしたという人は、残念ながら含み損に陥っているかもしれません。ただ、相場はいいときも悪いときもあるので、今の状態を気にしすぎることなく、コンスタントに資産形成を続けていってほしいですね。
もし、相場が悪いときに「ストレスが大きくて続けられない」と感じるのであれば、投資金額がご自身の身の丈に合っていない可能性があります。投信積立の金額を減らす、あるいは値動きが大きすぎるのであれば投資している資産やポートフォリオ全体を見直すなどして、続けられるように調整していきましょう。
そして、ある程度投資のキャリアを積んできた方には、ぜひその経験を、ひとりでも二人でもいいので周りの人に話してほしいと思います。もちろん、もうけ自慢や投資を強要するということではありません。投資信託を使って資産形成していることやその中で感じていることなどを率直に伝えることが、周囲の投資未経験者にとっては「背中を押す」行為であり、意味があると思うからです。
一方、これまで投資を経験していない方で、でも興味はあるという方には、怖がっていないでまず一歩を踏み出してください、とお伝えしたいですね。少額でいいので、とりあえず始めてみることが重要です。投資は自転車の乗り方を覚えるのと同じで、転んで小さなケガをしながら上手になっていきます。だから、大ケガをしない少額のうちに転び方を覚えておいたほうが、将来は上手に投資ができてより豊かになれると思いますよ。
最後にお伝えしたいのが、投資の意義は単にお金を増やすだけではないということです。私は、「世の中を広げる」ことも投資の大切な意義だと考えます。投資信託を通じて株を持つことで、ニュースの見方や世の中の景色も変わってきます。アクティブファンドであれば、ファンドマネジャーはどうやって株を選んでいるのか、なぜこの銘柄は売却したのかなど、いろいろ考えるきっかけになります。若い方たちにとって投資は世の中を広げてくれるもので、長い人生の中では投資のリターン以上に、大きなリターンを生むのではないでしょうか。
島田知保(しまだ・ちほ)
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン(株) 月刊「投資信託事情」発行人・編集長
投資信託検索サイト「投信まとなび」(http://www.matonavi.jp/ )のコンテンツ編集長。2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」委員。国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1958年創刊)発行人・編集長。
2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移籍し、現在に至る。プロ向け、一般向けを問わず、一貫して長期・積み立て・分散投資や社会的責任投資をテーマに活動。幸せ作りの道具として、お金や金融商品と「あんしん」して付き合うことを提案している。各種協会、金融機関、年金基金、投信評価機関、NPOなどが主催するセミナーの講師をつとめるほか、新聞・雑誌ほかメディアへの寄稿多数。
Morningstar Magazine、Morningstarによるグローバル調査などを通じて、日本の投資信託について海外に発信。「1億人の投信大賞」選定メンバー、「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」運営委員、「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ」呼びかけ人などをつとめ、若い投資家を育てる活動に積極的に取り組んでいる。