インターネットオークションでは世界最多の利用者を持つeBayから約13年ぶりにスピンオフし、2015年7月20日(月)にNASDAQに再上場したPayPalは、再上場を記念して2015年7月21日(火)、同社の広報代理店であるベクトル本社内にあるベクトルスタジオで、今後の日本市場におけるビジネス戦略を含む説明会を開催した。
2002年にeBayが15億ドルで買収した同社の株式は、世界をリードするオープンなデジタル決済プラットフォームとして、再上場時には500億ドル(約6兆円)という時価総額を付けた。当日の説明会には同社東京支店カントリー・マネージャーのエレナ・ワイズ氏が登壇して、成長著しい同社のサービス概要と今後の日本市場における戦略を報道陣に説明した。
会場は東京・赤坂ガーデンシティにある、総合PR企業ベクトル内のスタジオ。 ベクトルグループとして傘下に多数の子会社を持つ。
◎デジタルウォレットが台頭してきたことで、お金そのものが変わろうとしている。いずれは財布を持ち歩く必要すらなくなるだろう。
説明会に登壇したワイズ氏は挨拶冒頭で、「デジタルウォレットが台頭してきたことで、お金そのものが変わろうとしている。」と語った。デジタルウォレットとは、クレジットカードなどの既存の支払い方法と連携させ、パソコンやモバイルからのオンライン決済を容易にする仕組みで、これを使えば、オンラインショッピングをする際に、サイトごとに毎回発送先情報やクレジットカード情報を入力しなくても、ユーザー名とパスワードを入れるだけで決済が可能になる。ワイズ氏はこうした一般的な解釈の他、デジタルウォレットとは、「消費者とビジネスの間のお金のやり取りを本質的に変えるもの」と定義しているという。
また、ワイズ氏は「金融システムはDisruption(創造的破壊)が起こりうる状況にあり、物理的なお金はすべてデジタル化しつつある。今後3~5年の間に、過去20~30年の中で起こったことより多くのイノベーションが起こり、モバイルでの支払い、受け取り、クレジット決済など、いずれは財布を持ち歩く必要すらなくなる」と予測する。それを裏付けるように、同社の決済全体に対するモバイル決済の比率は、2015年度第1四半期時点で3割まで拡大しているという。
◎1.69億人を超えるアクティブユーザー、収益は80億ドル(1兆円)超えを記録
続いてワイズ氏は同社のデジタル決済のスケールと成長率をPR。世界における203の市場において、1.69億人を超えるアクティブユーザーを持ち、2014年だけで1900万人の新規アクティブユーザーを獲得。2014年に2350億ドル(28兆円)の決済を処理し、前年比28%成長したこと。また収益は80億ドル(1兆円)を超え、取引件数も40億件と前年比27%成長したと説明した。
さらに、17年以上の運営実績や不正利用の検知、(事故発生時の)消費者・店舗への全額保証、8000人におよぶスタッフによる24時間のサポート体制などが差別化する上での強みとだと紹介した。
同社は、「世界をリードするオープンデジタル決済プラットフォーム」を目指すとワイズ氏は語る。ビットコインをはじめとした仮想通貨でも決済に対応するなど、「お金そのものをもっと自由に、もっと簡単に扱えるようにする。」という。
最後にワイズ氏は、日本の市場について、3つのチャンスがあると説明した。
中小企業(ペイパルは中小企業のためのツール)
中小企業にデフォルトのツールとして世界中で利用されているPayPalは、簡単で手数料も安く、不正検知サービスも無料で付いてくる。また売り手を保護したり、現金化が最短で3日であったりと非常に便利で安心な決済サービスだと説明。「日本でも数万のビジネスで利用されているが、本格的な利用の拡大はこれからだ」と語った。
モバイル(次世代リテール体験の創造、モバイル中心に)
ワイズ氏は「2010年のPayPalのモバイル決済は1%だったが、今年の第1四半期では30%まで成長。そして日本においても、今年の第1四半期に初めてEコマースの決済の過半数を超え51%がモバイルで行われた。」としたうえで、「日本でもスタートアップ企業が台頭しているが、その主戦場はモバイル。スタートアップ企業はモバイルアプリでサービスを提供するところが中心で、PayPalはモバイルアプリ向けのサービスにも強みを持っている。」と語る。
訪日観光(急増する訪日観光、インバウンドEC整備の急務)
「訪日観光は前年比30%すつ伸びており、今年の1~5月では前年比45%増で、予想としては1500万人を軽く超える。旅行者の国内支出も43%増えて2.3兆円となっており、ホテル、旅行代理店、お土産販売などPayPalの強い決済サービスがより支援できる」と語ったワイズ氏は、続けて「クールジャパン関連のイベントでは訪日客の強い要望を受けて導入し、数ヵ月で全決済の半分をPayPalが占めるほどになったが、これはいかに海外の消費者がPayPalを信用しているかが分かる事例」と導入実績をPRした。
同社は1998年に設立以来、お金のやりとりをもっと自由に、もっと安全にすることを目指し、一貫してデジタル決済のイノベーションに努めてきた。現在では203の国と地域で、100通貨以上での決済、57通貨で銀行口座への入金、26通貨での支払い・受け取りが可能で、今後はビットコインをはじめとした仮想通貨決済にも対応するプラットフォームを提供するという。FinTechを背景に日本国内でもスタートアップ企業による多様な決済サービスの提供が本格化する中で、デジタル決済の今後の進化から目が離せない状況が続きそうだ。
(取材、撮影、記事、編集・制作:柴田 潔 @株式会社グッドウェイ )