2014年5月16日(金)、日本金融監査協会(IFRA)は、金融界の有識者を招いて、展望セミナー「変革の時代の金融機関経営(2014年度)」を開催した。
冒頭に、元金融庁長官、日本金融監査協会 顧問 五味 廣文 氏が「構造改革下の金融機関経営」と題して講演。日本経済が、ギリシャのような財政破たんに陥ることなく、持続的に発展するには、内外環境の変化に適応したビジネスモデルの変革が求められており、そのためのリスクマネジメントが必要になっていると強調した。また、金融機関も、コアとなる収益力を高めて、金融仲介機能を発揮し、日本経済の構造改革をサポートする必要性があると訴えた。そして、最近の金融行政のスタンスについて、金融モニタリング基本方針を打ち出したり、監督指針の改正案をみれば明らかなとおり、過去の損失の検証だけではなく、金融機関のビジネスモデルを再点検し、必要に応じて再編を促す方向に、すでに舵を切っていると解説した。
続いて、日本取引所グループ取締役兼代表執行役グループCEO 斉藤 惇 氏が「変革の時代のコーポレート・ガバナンス」と題して講演。東証上場規則で独立取締役の設置を義務付けることにしたが、今や欧米だけでなくアジア諸国をみても独立取締役の数は取締役会の過半を占めるのが一般的であり、国際的なガバナンスのスタンダードからみれば、日本はまだ大きく立ち遅れていると指摘した。また、日本企業のROE(株主資本利益率)が低位に置かれているのは、株式の持合いや独立取締役が少ないことなど、株主の視点からのガバナンスが十分に働かない結果であるとの見解を示した。
その後、ランチをはさみ、FFR+代表 碓井 茂樹 氏(日本銀行 金融機構局 金融高度化センター)による「変革が求められる金融機関のリスクガバナンス」では、金融庁が金融モニタリング方針や監督指針の改正案で、金融機関にリスクガバナンスの変革を強く促し始めた背景として、日本企業の不祥事の多発や、金融危機後、金融機関のリスクガバナンス強化に向けて国際的な議論・提言がなされていることを指摘。FSB(金融安定理事会)のレビューを紹介しながら、①取締役会の独立性・専門性の確保、②リスクアペタイト・フレームワークの構築、③監査機能の充実を「3本の矢」として、リスクガバナンスの態勢整備を進めることの重要性を解説した。
最後に、青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 教授 八田 進二 氏による講演「会計・監査とガバナンスの将来展望」では、会社法改正の動きを契機にして、2014年度は「ガバナンス改革元年」になると宣言。企業活動の透明性の確保と説明責任を担保すべく、会計と監査の表裏一体の諸改革に取り組むとともに、独立役員の設置など、取締役会・監査役会の変革にも積極的に取り組む必要があると強調した。国際社会からみると、社内監査役などは全く理解されない存在であるほか、社外取締役と社外監査役の実務上の役割分担なども説明が難しいとして、国際的な活動を行う企業では、取締役会・監査役会のあり方を見直すべき時期が到来しているとの見解を示した。
日本金融監査協会(IFRA)では、今後も展望セミナーを開催し、リスク管理方針や監査計画を考える参考の場として、また、ネットワーキングの場として提供していくという。
(取材、撮影、記事、編集・制作: 藤野 宙志 @株式会社グッドウェイ )