投資信託への投資は未経験、あるいは投資初心者という方に向けて、今回から改めて「投資信託の基本」をQ&A形式でお伝えしていきます。初回は、基本中の基本でありながら知らない人にとってはなかなか理解しづらい「『投資信託』とはどんな投資商品か?」について。マネックス証券プロダクト部で、自社で取り扱う商品の選定などを行なっている清野翔太さんが、「投信未経験の私の母でもわかるように」と丁寧に教えてくれました。
■Q1:そもそも「投資信託」が何なのか、ピンと来ません。
■A1:1本の中にいろいろなものが入った「パッケージ商品」だと思ってください
株や債券などと比べると、投資信託はよくわからないという方がいらっしゃいます。その理由のひとつは、株や債券とは異なり、投資信託が「パッケージ商品」だからかもしれません。一口に「投資信託」と言っても、投資信託ごとに「パッケージ」の中身がまったく違っているからです。
たとえば、「日経平均株価に連動する投資成果を目指す投資信託」であれば、その投資信託の「パッケージ」の中身は日経平均株価を構成する株式225銘柄です。また、「AI(人工知能)の有望な銘柄に投資する投資信託」という商品なら、「パッケージ」の中身はその投資信託の運用を担当するファンドマネジャーが選んだAI関連の複数の株式になります。
しかも、投資信託の「パッケージ」の中身は株式だけとは限りません。たとえば、債券だったり、リート(不動産投資信託)だったり、あるいは金や原油先物だったりということもあります。さらには、1つの「パッケージ」の中に、株と債券、株と債券とリートなど、複数のタイプの投資商品が含まれている「バランス型」と呼ばれる投資信託もあるのです。
なお、どんな投資信託を買うのか、それをいつ売るのかを決めるのは投資家ですが、それぞれの投資信託の中身、つまり「パッケージ」の内容を決めているのはプロのファンドマネジャーです。プロのファンドマネジャーがそれぞれの投資信託の運用方針に基づいて、具体的な商品を選定したり、銘柄を入れ替えたりしています。
■Q2:「パッケージ商品」だと、何がいいのですか?
■A2:少ない資金で多くの銘柄に分散投資できるというメリットがあります
「A1」で「日経平均株価に連動する投資成果を目指す投資信託」について触れましたが、この投資信託の場合は日経平均株価を構成する全225銘柄のすべてに投資します。「そんなにたくさんの銘柄に投資するのでは、多額の資金が必要になるのでは?」と思う初心者の方もいるかもしれませんね。
しかし、安心してください。投資信託は、「少額から買える」ことが特徴のひとつです。金融機関にもよりますが、大手のネット証券であればたいてい100円あるいは1000円という非常に少ない金額から購入が可能です。もちろん、少ない投資金額でも、前述の投資信託であれば、225銘柄のすべてに分散して投資できます。一般的には銘柄を分散すると、値動きのリスクを抑えることが可能です(ただし、「分散すればするほどいい」ということではありません)。
仮に、個別の株式を同じように225銘柄購入しようとしたら2000万円程度の資金を用意しなくてはなりません。また1銘柄だけ買うにしても、個別株は基本的に100株単位で購入するため、仮に1株5000円なら、100株では50万円が必要です。でも、投資信託の場合は、たくさんの人から何億円、何百億円という大きな資金を集めて投資する仕組みになっているので、一人ひとりは自分の身の丈に合った資金で投資することができるのです。
■Q3:投資信託の「いいところ」をもっと教えてください。
■A3:個人では買えないモノにも投資できて、プロが運用を行ないます
「A2」で、「少額から買える」「1銘柄で分散投資できる」という投資信託のメリットをお話しましたが、投資信託には他にもメリットがあります。まず、投資対象が幅広いこと、そして個人では買うのが難しい金融商品でも投資信託を通じてなら投資できることです。
最初にお話したとおり、投資信託では国内外の株式や債券、リート、金や原油の先物取引、さらにはヘッジファンドなどまで投資の対象としています。投資対象が幅広いことで、収益を獲得するチャンスも広がります。
国内株や一部の海外株、債券などは、個人でも購入できますが、新興国の株式やリート、ましてやヘッジファンドなどは、個人ではなかなか購入できません。たとえば、「ケニアの株」となると日本では個人で買うのはまず無理です。しかし、投資信託の中にはケニアの銘柄に投資している商品もありますから、投資信託を活用すれば、個人でもケニアの株式を間接的に購入できるのです。
そして、「A1」でも少し説明しましたが、「プロが運用を行なう」ことも投資信託の大きな特徴であり、メリットです。個々の投資信託の運用方針に基づいて、運用会社のプロのファンドマネジャーが豊富な情報と見識、綿密な調査をもとに銘柄を選定し、適切なタイミングで購入したり、銘柄を入れ替えたりしてくれます。
国内株であればニュースや公式サイトのIRページなどから、個人でもある程度の情報が得られますが、たとえば「A1」で取り上げた「AI(人工知能)の有望な銘柄に投資する投資信託」の場合、個人が「これから有望なAI銘柄」を絞り込んでいくのは大変です。プロが運用するからこそ、このように個人では情報を取りにくい、あるいは判断が付きにくい投資対象でも、投資信託は扱うことができるのです。
■Q4:「投資信託」にもデメリットってありますよね?
■A4:運用中もコストが発生することは知っておいてください
決して「デメリット」ではありませんが、投資信託は保有している間はずっとコスト(「信託報酬」と呼ばれる運用管理費用)がかかり続けます。この点は、よく覚えておきましょう。
「株や債券は持っていてもコストはかからないのに…」と思う方もいるかもしれませんが、「A3」でお話した通り、投資信託はプロのファンドマネジャーが投資家の代わりに運用をしています。そのため、運用の費用がかかってくるというわけです。
コストという意味では、ほかにも購入時にかかる「購入時手数料」や解約のときにかかる「信託財産留保額」があります。ただし、購入時手数料は商品や証券会社によってはかからないものも増えてきていて、信託財産留保額についてもかからない投資信託もあります。
一方、運用管理費用はどんな投資信託でも必ず発生しますが、その割合は商品ごとに異なります。大雑把に言うと、運用の手間がかかったり仕組みが複雑だったりする投資信託の場合は運用管理費用が高めで、「日経平均株価」などの指数連動を目指すような、あまり運用の手間がかからない投資信託では運用管理費用は低めになります。
もう一つ、これも「デメリット」ではありませんが、基本中の基本として覚えておいてほしいのは、投資信託は元本保証の金融商品ではないということです。いくらプロが運用にあたっても、分散投資によって値動きのリスクを低減していても、相場の状況や運用の結果で、元本を割り込むケースもあり得ます。
■Q5:「投資信託」って投資初心者が買っても大丈夫ですか?
■A5:少額+プロの運用+分散投資――初心者にもおすすめできる商品です
ここまで説明してきたように、投資信託は少額から買えて、1本でさまざまな商品・銘柄に分散投資が可能です。また、プロが運用するので、自分で個々の銘柄を選んだり銘柄を入れ替えたりする必要もありません。投資の初心者にとっても、投資信託は利用しやすい商品だと思います。定期的に少しずつ購入していく「積立投資」にも対応しているので、一度に多額の投資はできないけれど、長期にわたって資産を増やしていきたいという若い人などにもおすすめです。
では、初心者はどんな投資信託を購入すればいいのでしょうか。最後に少しだけ、考え方のヒントをお伝えしたいと思います。
重要なのは、ご自身がどのような投資をしたいのかを考えることです。市場の値動きと同じくらいの収益を狙うというのであれば、「日経平均株価」や「TOPIX(東証株価指数)」などに代表されるインデックス(指数)に連動する成果を目指す投資信託(「パッシブ型」と呼ばれます)を選ぶのがよいでしょう。
また、投資信託には「パッシブ型」のほかに、ファンドマネジャーが市場平均よりも優位なパフォーマンスを狙って運用する投資信託(「アクティブ型」と呼ばれます)もあります。たとえば、「これからは高齢化社会で医療・介護分野が伸びるはずだから、そういうところに投資したい」というように投資したい分野が決まっている場合は、「アクティブ型」の中から、自分がよいと思うものを選びましょう。
あまり知識がなく、どういうものを買えばいいのかわからないという場合は、市場と同じくらいのペースで資産を増やしていく「パッシブ型」のほうがよいかもしれません。ネット証券各社のサイトでは、投資信託を選ぶときの助けになる検索機能や解説記事などを用意していますので、そちらもぜひ参考にしてください。
【まとめ】
投資信託は、日本で個人が買えるものだけで約6000本(株式投資信託)もあり、取引に関わる用語には少し難しいものもあるため、最初は「ハードルが高い」と感じて敬遠している方もいるかもしれません。しかし、すでに説明したように、ネット証券なら100円あるいは1000円程度から買うことができて、購入時の手数料がかからないという商品もたくさんあります。
ですから、最初から「投資信託のすべてを理解しよう」とは思わずに、「資産運用のひとつのツール」と捉えてまずは少しだけ買ってみるのがよいかもしれません。そして、100円のものが105円になったり95円になったり、「資産価値が変動する」ことを体験したり、そのときに自分の気持ちがどう動くかというのをぜひ体験してみて欲しいと思います。
(取材・記事:肥後 紀子 / 撮影:柴田 潔 / 編集・制作:グッドウェイメディアプロモーション事業部)