上記のような日本の労働市場の構造転換と質的変容の背景には、グローバル化の進展の(直接・間接を問わず)影響が窺われる一方、逆に、労働市場の変質が、日本の「国際競争力」の低下を通じて世界経済における日本の位置づけに影響した可能性も同時に考えられる。すなわち、不況下における厳しいリストラ圧力のもと、外部研修等の支出が削減されたほか、主に製造業における正規雇用の縮小トレンドの中で、新卒一括採用・企業内部での人材育成という既往の人事システムを通じた知的資本(knowledge based capital)――特に人的資本(human capital)――の蓄積機会が抑制・削減されてきた可能性が高い。この点、同時期における主に非製造業の非正規雇用の拡大は、非熟練労働需要への柔軟な対応という観点からは合理的な帰結であったものの、製造業において失われつつあった人材育成機会の代替的な提供という側面は必ずしも具備しなかったとも言える。人的資本投資の低下が、日本の「国際競争力」や中長期的な成長力に対して、実際にどの程度、影響を及ぼしたかとの問いは、実証的にも政策的にも、今後、慎重な検証を要する課題と言えよう。