2014年3月4日、FXCMジャパン証券は、エクイニクスの東京データセンター(エクイニクスTY3)において、ファストマッチの外国為替取引システムのシステムライセンス会社としてサービス提供を開始すると発表した。ファストマッチを含むECNビジネス(電子取引ネットワークビジネス)を専門に担当する法人部門を立ち上げ、金融機関やヘッジファンド、FXブローカーをはじめとする法人顧客に向けて、高速で柔軟な直物外国為替の取引サービスと多様な流動性を提供していくという。
2014年2月25日、グッドウェイは、東京・大手町にあるFXCMジャパン証券の本社において、新サービスの背景と狙い、今後のビジョンとビジネス展開などについて、FXCMジャパン証券 Senior Executive Officer Head of FXCMPro 中島 雅之 氏にインタビューを行った。
本日はよろしくお願いいたします。スプレッド競争が続くリテールFXの分野を横目に、一部の日本のFXブローカーの間でも海外拠点の設立やサービスプロバイダー同士の業務提携などグローバル化が加速していますね。
そうですね。今回、我々もファストマッチからライセンス提供を受け、機関投資家をはじめとする法人向けに、新たにECNに特化したサービスの提供をFXCMジャパン証券が東京に保有するファシリティにおいて開始することにしました。今後、TY3のファシリティを有効に活用し、この分野でグローバル展開するビジネスを東京、そしてアジアへと拡大していく予定です。
それは興味深いですね。ファストマッチについて簡単に教えていただけますか?
もともとエクイティの分野で圧倒的な実績を持つクロスファインダーというシステムをベースに開発したスポット為替のマッチング・エンジンです。既に、エクイニクスのニューヨーク、ロンドンのデータセンターで、それぞれサービスを提供しており、順調にビジネス基盤を拡大しています。そして、今回、東京データセンターにおいてもサービスを開始することになりました。
(ファストマッチのプレスリリース >>FastMatch Deploys Matching Engine in Equinix IBX Data Center in Tokyo - 04 Mar 2014)
どのような顧客がサービスの対象となるのでしょうか?
テイカー、メイカーを問わず、金融機関、ヘッジファンド、HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング:高頻度売買)、FXブローカーなどが対象となります。バンク、ノンバンクと多様なリクイディティとの接続を進めていきます。参加者は、エクイニクスの東京データセンターに専用線もしくはVPN接続し、FIXプロトコルにより、すぐに取引を始めることが可能です。もちろんコロケーションサイトで直結することもできますし、また、GUIベースの取引画面も提供いたしますので、アルゴチームを持たないディーリングデスクの参加者も対象となります。
先ずは参入障壁を極力減らし、オープンなプラットフォームを提供するということですね。それでは、実際に参加した顧客のメリットには具体的にどのようなものがあるのでしょか?
既存の電子ブローキング・システムの大手サービスと比べると、顧客の色々なニーズにも応えられる多様なリクイディティを提供できる点が挙げられます。バンクやGUIベースの参加者はもちろんのこと、HFTやアルゴ等の厳しいニーズに合うリクイディティの提供はファストマッチの得意分野ですし、リテールのフローやカストディのフローも提供できるといった多様性は他社にはない当社の強みだと思います。注文執行時間(ラウンド)が他社のシステムに比べ、平均100マイクロセカンドと圧倒的に速い点もファストマッチを利用するメリットです。処理速度がますます重要になる中で、高度な技術基盤により、世界最高速のサービスを提供することで、時代が求める新たな参加者の要求に応えることが可能になります。更に、参加者への名前の開示・非開示だけでなく、専用ツールにより、ビジネスニーズに合った取引相手のみを、リクイディディ・プールに接続されているリクイディティストリームの特性(リジェクション、レイテンシ)等を参考に、チョイスするといったカスタマイズをオンラインで行えます。また、実績のあるクロスファインダーをベースとしていることで、最先端のかつ安定したサービスを他社よりも安いコストで利用できる点も大きなメリットで、他社の追従が難しいところだと考えています。
なるほど、新しいビジネスシーンと領域を創出していく魅力的なビジネスモデルですね。ところで、FXCMジャパン証券のリテールビジネスとの関連性はどのようなものになるのでしょうか?
おっしゃる通り、我々の収益の柱はリテールと法人の2つあります。もともとリテールでは、日本の一部の最大手ブローカーを除くと世界最大手の1社であり、アメリカにおける規制に関する議論やDD(ディーリングデスク)モデルへの強い批判などもあり、FXCMグループでは高い透明性を確保しつつリスクをとらないNDD(ノーディーリングデスク)モデルを2007年にいち早く採用しています。ファストマッチの直接の顧客は法人に限定されますが、ファストマッチを導入することで、FXブローカーや金融機関がこれまで対応が難しかったスキャルやアルゴを使うリテール顧客にファストマッチから取り込んだリクイディティを提供したり、逆にリテールのオーダーをファストマッチのリクイディティ・プールにぶつけることで、マーケットメイカーが提示するスプレッドの内側で約定をつけたりすることが可能になり、ウイン・ウインの関係が期待できます。リクイディティの質やプールの構造を見ながら、どこまでリテールと法人のフローをインテグレートしていくかは適時検討していきます。先ずは1年後には法人サービスを軌道に乗せて、将来は日本におけるリテールと法人のビジネス規模を同レベルまで持っていきたいと考えています。
東京をアジアにおけるハブとなることを目指すということですが、詳しく教えていただけますか?
アジアは多様な通貨が混在する成長マーケットなので、有望な収益が期待できる市場であることは言うまでもありません。近年では、日本の金融機関も、コマーシャルレンディング、IPO、デリバティブビジネス、ストラクチャー商品等の分野でシェアを伸ばしてきていますが、キャッシュマネジメントサービスや決済関連サービスでは、日本の金融機関以外の外資系金融機関が一歩先を行っており、この分野で大きな収益をあげています。FXCMは既にアジアを重点地域としてFX事業を展開しており、アジアの顧客基盤や現地ビジネスで得たノウハウを通じ、日本の金融機関のアジアでの収益機会を増やしていくための側面サポートをしていきたいと考えています。
日本とアジアの経済連携とグローバル化に向けて、為替ビジネスの領域が果たす役割は、とても大きなものですね。
はい、我々はファストマッチを通じて東京にアジアのフローを集めることで、東京フォレックスマーケットの活性化と機能向上を通じ、アジアにおける東京マーケットのステイタスアップに貢献したいと考えています。東京は、シンガポール、香港、上海との競争ではなく、アジアのハブとして、むしろニューヨーク、ロンドンと競争できるポテンシャルを有していると考えています。
とても、おもしろいですね。一方、金融業界や政治の世界において、エクイティやデリバティブに比べると、フォレックスについての話題は控え目な印象です。
東京フォレックスマーケットの国際ランキングや外国為替に対する国民の関心の高さがよく話題に上る割には、フォレックスマーケットの国際競争力をどのように高めていくかといった議論が少なすぎると感じています。フォレックスマーケットの収益構造のプロファイルをもっと分析し、フォレックスが経済の中で果たすべき役割について議論を重ね、具体的な対策を実行に移していくことで、アジアにおける東京のプレゼンスを高めていく必要があると思います。先般、あるカンファレンスで、参加者による投票が行われ、現在最も使いたいフォレックスマーケットに東京が選ばれましたが、数年後にはどうかという質問には、多くの人が上海、シンガポール、香港がトップ3になると答え、日本の地盤沈下を予想していました。根拠として挙げていたのは、国際間競争における規制や政策に対する国としてのメッセージの強さの違いです。日本の大手金融機関がアジアにおけるビジネス展開の要としてフォレックスマーケットの重要性を掲げ、議論をできるようにするためにも、このファストマッチの新サービスを多くの参加者に使っていただけるよう取組んでいきたいですね。
本日は、これからの日本のフォレックスマーケットが進む方向性やそのあり方を考えさせられる、とても有意義なお話をうかがうことができました。ありがとうございました。フォレックスが社会インフラとして、日本とアジアの経済成長と発展につながる価値創出に役立っていくことを期待しています。
こちらこそ、ありがとうございました。
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(取材、撮影、記事、編集・制作:藤野 宙志 @株式会社グッドウェイ )