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2021/03/02

元統合幕僚長の岩崎氏が考える、ミャンマー軍事政権に対する4つの要請

| by:ウェブ管理者
*16:50JST 元統合幕僚長の岩崎氏が考える、ミャンマー軍事政権に対する4つの要請
2月1日、ミャンマーでこれまでの政権側の中枢で活躍していたウイン・ミン大統領や国家最高顧問のスーチー氏が拘束され、一時的に副大統領が大統領代行を行う事態となった。昨年11月に行われた5年ぶりの国政選挙に関して、ミャンマー国軍の主張と政府側の意見が合わず、軍が実力行使をしたのである。ミャンマー国軍はミャンマー国憲法に基づく行為との説明を行っているものの、欧米や我が国の政府としては、軍によるクーデターとの見解で「認める事が出来ない」との態度を表明している。ミャンマー国内では2月1日以降、ミャンマー最大の都市ヤンゴンや地方都市でも、国軍の行為に反対するデモが続いている。

そして2月9日、首都のネピドーでのデモに参加中、警官から発砲され重体となっていた方が、19日にお亡くなりになった。また、2月20日には、ミャンマー中部のマンダレー市で治安当局がデモ参加者に発砲し、少なくとも二名の死亡が伝えられ、最近では十数名が死亡したとの報道もある。事態はどんどん悪化の傾向にあるように思える。

各国は「クーデターを絶対に認めることは出来ない」との声明を発するとともに、「拘束者の早期解放」を要求している。また、米国はいち早くミャンマーに対する制裁を宣言するとともに、開始している。我が国も「クーデターに反対するとともに拘束者の早期解放を求める」としている。

私は今回の事案に対し、心を痛めている。現職時代から、これまでの間、何度となくミャンマー軍のミン・アウン・フライン国軍司令官とお会いし、いろいろな意見交換をしてきている。軍事政権が続いていた間、我が国とミャンマーとの交流は極めて限定的であり、防衛省・自衛隊とミャンマー軍の交流もほぼ行われていなかった。防衛省としてミャンマーと交流を再開したのは2013年からである。私は2014年5月、ミン・アウン・フライン司令官からのご招待でミャンマーを公式訪問し、会議や部隊視察、そして昼食会や夕食会等で、国軍司令官とかなりの時間を意見交換に費やした。我々の議題の多くは、今後の自衛隊とミャンマー軍との交流やミャンマー国の更なる民主化、そして民主国家における軍の役割・位置づけ等々であった。私は、ミン・アウン・フライン国軍司令官が真に民主化に情熱を持って取り組んでいると感じ、その後、我が国への公式招待をお願いして帰国した。ミン・アウン・フライン国軍司令官は、訪日を最優先とするとの事で既に設定されていた予定を変更し、2014年9月に訪日が実現した。

ここで少し、ミャンマーと日本のこれまでの関係を少し述べたい。歴史的に我が国とミャンマーは、いい関係を保ってきていた。特に、現在でもミャンマー国民が我が国に親近感を持っているのは、私は、アウン・サン将軍(アウン・サン・スーチー氏の父親)と鈴木大佐(アウン・サン将軍訪日時の階級、終戦時は少将)の関係があったからだと考えている。大東亜戦争期間中にアウン・サン将軍は日本の鈴木大佐の下で、様々な勉強をした。鈴木大佐の御実家の蔵に閉じこもり、国としての要件や軍として必要な事を学んだと言われている。そして帰国し、第二次世界大戦後、当時ミャンマーを占領していた英国と戦い、ビルマ(当時)を独立させたのである。この際にも鈴木少将が大きく関与したとも言われている。この為、ミャンマーでアウン・サン将軍は「ビルマ建国の父」と呼ばれている。そして、多くのミャンマー国民は鈴木少将に対する感謝を忘れていないし、日本に対して親しみを感じているのである。ミン・アウン・フライン国軍司令官が訪日された際にも、鈴木少将の御実家を訪れ、アウン・サン将軍が過ごされた蔵を視察されている。

今回、国軍は昨年11月の選挙には大きな不正(有権者数が25%も異なっているとの主張)がある事を選挙管理委員会に訴えたが、不正調査を拒否され、アウン・サン・スーチー国家最高顧問に調査をお願いしても拒否されたとの事である。私にはどちらが正しいかを判断できる情報を持ち合わせていない。ミャンマー国軍は憲法に則った手段との説明をしているが、いずれにしても軍が実力行使をすべきは外敵である。軍が実力行使をするのは、基本的には国家が混乱状態にあり、警察力で平定困難で、かつ当時の政府が軍に出動を命ずる場合、即ち「治安出動」事態しかないと考える。これが民主主義国家である。今回は大変残念な事態になっているが、私はミャンマー国軍に対し、また現在のミャンマーを取り仕切っていると言われる「連邦行政評議会」に対し、以下の4点を要請したい。

(1)国際社会との対話の維持
(2)現在拘束されている方々の早期解放
(3)民政移管(国政選挙)の早期実現
(4)デモ対応における武器等使用の制限

ミャンマー対応を巡っては、過剰な制裁が中国寄りの姿勢を招くとの懸念があり、各国とも制裁に慎重であるが、毅然たる態度で臨むべきであると考える。そして、仮に国際社会との対話により、国際社会の要請を受け入れるのであれば、これまでの様々な交流や支援を続けるべきと考える。いま、私達が一番考えないといけない事はミャンマー国の平和と安定であり、国民の安寧である。決して今の状態を長期化させてはいけない。ミャンマーの隣の国であるタイでは、プラユット政権が長期化している。プラユット陸軍司令官当時、私に「我々は決して政権には就かない」といわれ、不幸にもインラック首相が失職し、軍が仕方なしに政権に就いたのであるが、その際にも「我々は18ヶ月後には民政移管する」と約束をした。2014年の事である。もうじき7年になろうとしている。それにも拘らず、未だに政権に就いている。今、民政移管すれば国が混乱するなどという言い分はあるだろうが、私はそれ認めるわけにいかない。ミャンマーが早期に民主化路線へ回帰するのを望む毎日である。(令和3.2.27)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:AP/アフロ


《RS》

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